モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
「怖い夢を見たせいで、目覚めが悪くて。でももう大丈夫よ」

 サフィはほっとしたように目じりを下げる。

「それは災難でしたね」
「最近、よく見るのよね」

 ベアトリスはようやく動き始める。サフィが用意してくれた洗面用の陶器の桶に手を入れて、顔を洗う。

「フィークス神殿に行けば悪い夢から身を守る御守りをいただけるようです。近いうちに私が行ってきましょう」
「ありがとう。でもフィークス神殿か……」
「お嬢様?」
「あ、なんでもないの。着替えるわ」

 ベアトリスの言葉に応えるように、サフィと彼女の同僚の部下が動きだす。

 その様子を眺めるベアトリスはわずかに顔を曇らせた。

(フィークス神殿って、なぜかあまりいい印象がないわ)

 大切な聖女の行方不明という失態を演じたことで信頼が低下しているからだろうか。

 それとも召喚式で関わったコスタ司教が冷たい印象だったからか。

 この国で暮らす人々にとって必要不可欠な存在ではあるが、悪夢と同様出来れば関わりたくないと思う。そんなふうに感じる自分が不思議だった。

 着替えを済ませてから、朝食を取るためにダイニングルームに向かう。

 すでに家族が集まっていて、ベアトリスが入室すると皆が優しい笑顔で迎えてくれた。

「トリスちゃん、おはよう」

 真っ先に声をかけてきた母に、ベアトリスは微笑んで答える。

「おはようございます」
< 163 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop