モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
 父と兄にも同様に挨拶をしてから席に着く。

 クロイツァー公爵家では、母の意向で貴族にしては珍しく家族全員が揃(そろ)ってから食事を始め、会話を楽しむ。穏やかな空気にほのぼのとする、ベアトリスの楽しみにしているひとときだ。

 しかし今朝はいつもと違い、父の様子がおかしい。どことなく重苦しい空気を纏っているのだ。食事を終えた頃、父が重い口を開いた。

「トリス、今日から護衛を増やすからそのつもりでいなさい」
「護衛を? レオだけではだめなのですか?」

 ベアトリスは思いがけない父の言葉に戸惑う。

「そうだ。レオのほかに数人つけるから、必ず彼らと行動をともにするように」

 口調は穏やかながらも、ベアトリスの反論を許さない。

「わかりました」

 供を大勢引き連れて歩くのは気が進まないが仕方ない。

「あのお父様、急に護衛を増やすのはなぜですか?」

 ベアトリスの身に危険が迫るような情報が入ったのだろうか。

 母と兄は父の話に少しも驚いていないので、事情を知っていそうだ。

 父はちらりとランベルトに目配せする。

「トリス、私から説明しよう」
「はい、お兄様」
「王太子殿下から多少は聞いていると思うが、現在聖女が行方不明だ」

 ベアトリスは「はい」と相づちを打つ。
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