モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
 そう言い、ベアトリスの手をそっと持ち上げて口づける。騎士が姫に忠誠を誓うように。

 大切に労わり慈しむその眼差しは、彼の言葉が嘘偽りのない真だと訴えているようだった。

 ベアトリスは高鳴る鼓動を嫌と言うほど感じながら、ユリアンのサファイアブルーの瞳を見つめる。

「わ、私は……まさかそんなふうに言ってもらえるとは思わなくて」

 ユリアンには嫌われていたはずだ。たしかに彼はベアトリスに嫌悪感を示していた。

 怖い顔をしてベアトリスの失敗を責めて、時にはあきれたような目をしていた。

(でもあれは私がほかの生徒に迷惑をかけたから)

 そうでないときの彼は、責めるような言葉を放たなかった。ツェザールのような心底憎いという目もしなかった。
 過去については、ユリアンとの楽しい思い出はおそらくない。唯一婚約者としての初めての顔合わせのときは優しかったような気がするが、それだけだ。

(私が心を入れ替えたから?)

 正確には以前のベアトリスではなく、ロゼ・マイネが混じった人格のベアトリスが、だが。

「そう思われても仕方がない態度だったと思っている。実際以前の俺は婚約を解消したいと考えていた。だが反省していると言って変わっていくベアトリスに対して、気持ちが変わった」

 ユリアンはベアトリスから目を逸らさない。
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