モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
(私が無茶をしたらユリアン様にも心配をかけてしまうものね)

 ベアトリスは逸る気持ちを懸命に抑える。

「トリスちゃん、一緒にお祈りしましょう。必死に願えば少しは届くかもしれないでしょう?」
「はい、そうですねお母様」

(どうか皆が無事でありますように)

 母とともに願いを込めた。




 今直面している問題には関われず、学院も休みになっているベアトリスは手持無沙汰だった。

 図書室にでも行こうとしていたとき、屋敷内が急に騒がしくなったことに気がついた。

 何事かと騒ぎが起きている玄関ホールの方に向かう。

 大きな階段を下りている途中に、様子がはっきり見えた。

 タウンハウスを仕切る家令が対応しているのは四人の騎士。先頭にいるのが上官なのだろうが、遠目にも見覚えがあった。

「ツェザール様」

 思わずつぶやくとまるで声が聞こえたかのようなタイミングで、ツェザールがベアトリスに気づいた。

 目が合った習慣、彼から怒りのオーラが立ち上ったような気がして、ベアトリスは思わず身をすくめた。

 そういえば彼とまともに顔を合わせるのは討伐訓練のとき以来だ。

「クロイツァー公爵令嬢」

 ツェザールがベアトリスに呼びかけた。

「ツェザール・キルステン様、ごきげんよう」

 ベアトリスは彼を家名で呼んでから、立ち止まっていた足を再び動かす。
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