モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
 にもかかわらず今追及するのは、母がなにかを気にしているからだろう。

(お母様、どうしたのかしら)

「用件は直接令嬢にお伝えするとのことです」

 ツェザールはひざまずいたまま答える。

「こんなときに詳細も知らせず娘を送り出せと言うの? 王太子殿下らしくない命令ね」
「このような状況だからこそ、護衛として私を遣わしたのです。こちらを」

 母の厳しい問いに落ち着いて答えたツェザールは、背後の部下から受け取った書状を母に差し出す。家令がそれを受け取り、母に渡す。

「……間違いなく王太子の印章ね」

 母は書状が正式なものであると確認すると、仕方ないと言わんばかりにため息をついた。

「トリスちゃん、急いで支度をしてちょうだい」
「はい、ただいま」

 ベアトリスは急ぎ自室に向かい、王宮に向かうための身支度をする。

 侍女の手を借りて最速で身支度を整えると、玄関ホールに戻った。

 ツェザールを始めとした騎士たちはひざまずいてはいないものの同じ位置にいた。

 ただ、先ほどと違いホールにはレオと護衛がいる。

「念のため、公爵家の護衛もつけるわ」

 母の言葉にツェザールたちが異議を申し立てることはなかったが、不満そうにしているのは肌で感じた。

 しかし母は気にした様子もなく、レオと護衛に告げる。

「皆、娘を頼みましたよ」

 厳しい眼差しは、普段の優しい母のものではなく、国内最高位の貴族夫人のものだった。
< 185 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop