モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
◇◇
必死に走っているのに足音がどんどん近づいてくる。
しかも迷いなく真っすぐ自分に向かってきているのだ。
(追われているわ)
込み上げる恐怖に、ロゼ・マイネは叫び出したい気持ちになった。
もちろん実際にそんな真似をしたら居場所を知らせるようなものだから、口をきつく結んで耐えているが見つかるのは時間の問題だと感じた。
物騒なことには無縁の平民として、慎ましく生きてきた。
(私がまさか、こんな異常な事態に巻き込まれるなんて信じられない!)
でも、すべて自分で選んだ結果だ。
怖くてどうかしそうだが、間違ったことはしていない。もしやり直せても自分は同じ選択をするだろう。
(私は正しい行いをしているのよ!)
そう自分を奮い立たせて、痛みを訴える足を必死に動かす。
だんだん明るくなってきた。人の手によって木々が伐採される入口近くに来たのだろう。きっともう少しで森を抜ける。そう遠くないところに町があるはずだ。そうしたら誰かに助けを求めて……。
ようやく希望が見えてきたそのとき、突然前方の空気が揺らいだ気がした。
息をのむロゼの前に、魔力の光が広がる。
「あれは転移の魔法?」
遠い距離を一瞬で飛べるという魔法陣。大きな町や重要な施設に設定されているが、使用に魔力が必要なため、平民にはあまりなじみがない。
ロゼも利用したことがないが、院長のお使いで一度だけ転移門に近づく機会があったので、魔法陣に見覚えがあった。
しかしなぜ、こんな人気のない森の中にあるのだろう。