モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
 神殿と関わりがなく政治にも介入していないベアトリスに、フィークス教団でもドラーク枢機卿に次ぐ地位である彼がなんの頼みがあると言うのだろうか。予想は出来ないが、父とユリアンがベアトリスに知らせもせずに断ったというのなら、きっとよくないことだと思う。

 不安が募り、ベアトリスは顔を曇らせる。

「実際見てもらった方がいいでしょう」

 スラニナ大司教は微笑みながらそう言うと広場のさらに向こうに足を向けた。

「こちらに」

 行きたくはないが、背後にはツェザールがいてベアトリスに早く行けと言わんばかりに圧力を加えてくる。

 仕方なく進むと、行き止まりだと思っていた石畳の先に下りの階段があった。かなり昔に造られたのか一段一段が大きく歩きづらいし、あちこち石が欠けている。

 ドレスのスカートを掴みながら慎重に階段を下りていくと、目の前に信じられない光景が広がった。

「これは……」

 ベアトリスの声は情けなく震えてしまった。視界の先にあったのは、信じられないくらい巨大な樹だったのだ。

 なにもないただひたすら広い空間に、枝葉を広げた巨大な樹の堂々たる姿があった。

 聞かなくてもわかる。これが神木なのだろう。

「その様子ではここに来るのは初めてですね」
「は、はい……遠目に拝観したことはあるのですが」

 しかしこれほど近くで見られるのは限られた者だけだ。例えばユリアンや公爵家の当主である父など。
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