モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
(こんなに大きな木だとは思わなかった……なんだか怖い)

「こちらから見て神木の右側に黒い靄(もや)がかかっているのが見えますか?」

「え? ……はい、見えます」

 スラニナ大司教の手が指し示す方向に目をやると、たしかに枝がすすを被ったように黒ずんでいる。

「神木が枯れかけている証です」
「あれが? 普通の樹とは症状が違うのですね」

 葉に栄養が不足しているというより、汚染されているように見える。

「驚かないところを見ると、ある程度王太子殿下から聞いているようですね。では話が早い。あなたに頼みたいのは、神木の回復です」
「……え?」

 ベアトリスは大きく目を見開いた。スラニナ大司教の言葉が信じられなかったのだ。

「な、なにをおっしゃるんですか? 私にそんなことが出来るはずがありません。だって神木を癒せるのは聖女様だけでしょう?」

(だからユリアン様も父も兄も必死に聖女様を捜しているんじゃない!)

 しかしスラニナ大司教は自信にあふれた様子でうなずいた。

「その通りです。ですが大変異例なことに、ベアトリス嬢にも神木を癒す力があると判明したのです」

「ま、まさか! 私にはそんな力はありません。初歩の魔法だってろくに使えないのです」

「いいえ。あなたには特別な力があり、その力は日々強くなっています。おかげで我らが感知出来たのです」

 とても信じられない話だが、スラニナ大司教は真剣だ。
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