モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい

　◇◇

「トリス、気分が優れないのか？」

　朝食をとるためにダイニングルームに入ったベアトリスに、上座に着席している壮年の男性が声をかけた。同じテーブルに着いている優雅な女性と、女性によく似た綺麗な顔立ちの若い男性もこちらに視線を向けていた。

三人とも華やかで気品にあふれ、上位貴族の風格が滲み出ている。

「いいえ。大丈夫ですお父様。お母様とお兄様もお待たせして申し訳ありません」

　ベアトリスはぎくしゃくとした動きで空いている席に腰を下ろす。その間も痛いほどの視線をひしひしと感じて居心地が悪く、目を合わせないように視線を別の方向に向けたら、今度は壁際に控えていた四十代くらいの男性と視線が重なった。

（この男の人は誰だっけ。上品な感じだから偉い人なんだろうけど）

　動揺しながら必死に考える。しばらくしてこの屋敷の使用人をまとめる執事のエリオットだと思い出した。

　思考がひどく混乱していて、知っているはずの相手でもなかなか名前が出てこない。

　続いて室内を見回した。

　わずかの汚れも見つけられないピカピカに磨かれた窓。ミントグリーンの壁には金の装飾。天井にはきらびやかなクリスタルのシャンデリアと、どこに視線を向けても華やかさと気品にあふれている。

　ここはダールベルク王国の名門貴族クロイツァー公爵家のタウンハウス。