モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
 だけど、おかしな点があることにも気がついた。

 ユリアンは『遅くなってすまない。大丈夫か?』とベアトリスに言った。

 スラニナ大司教を捕らえる機会をうかがっていたのだとしても、少し違和感のある言い方だったように思う。

 ベアトリスが悩んでいるうちに、状況が変化した。窮地に立ったスラニナ大司教が、神殿騎士に命じ、ユリアンにまで牙をむいたのだ。

 王太子にまで攻撃するとは、しかも神木の間近で戦闘を行うなんて考えられない。

「ベアトリス、そこから動くなよ」

 ユリアンは剣を鞘から抜くと、襲いかかってくる神殿騎士たちを人数をものともせずに撃退していく。

 以前彼とふたりで迷った森の中でも感じたが、圧倒的な強さにただただ驚愕するばかりだった。

 戦闘は予想していたよりもずっと早く片がついた。誰もユリアンに叶う者がいないのだ。

「スラニナ大司教、ここまでだ。降伏しろ」

 ユリアンが剣を鞘に戻しながら告げる。

「い、いやだ……私が降伏などありえない」

 優位性を失ってからのスラニナ大司教は、余裕などなにもなくぶざまですらあった。

 多くの者に危害を加えておきながら、自分が傷つくことへの覚悟がいっさいない。

 ユリアンは厳しいが残酷ではない。スラニナ大司教の罪は公の場で裁くはず。それなのにあまりに見苦しく、あきらめが悪い。
< 210 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop