モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
「カロリーネ・シェルマン」
名前を呼ばれた女生徒が返事をして舞台に上がる。紺色の髪に同色の瞳の、凛とした雰囲気の女性だ。
何事も一番初めに行うのは不安で緊張するものだが、彼女は堂々としていて、ベアトリスはその様子に感心した。
「そなたに神木の実を授けよう」
コスタ司教が、銀の盃の中から小指の先くらいしかなさそうな小さな緑の実を取り、カロリーネに差し出した。この儀式を行う前に、神木に生る実を食べる必要があると事前に聞いているものの、ベアトリスは正直言って少し抵抗がある。
しかしカロリーネはためらいもせずに、木の実を受け取りごくりと飲み込み儀式が始まる。
あらかじめ用意されていた魔法陣の中央で彼女が祈りを捧げると、周りに水色の光が立ち上った。やわらかな光はやがてキラキラと粉雪のように舞い降りてくる。
「綺麗……」
なにか変化があるだろうとは思っていたけれど、こんなに幻想的なものだとは。
光の雪に見惚れていると、わっと歓声があがった。
「あれは水の精霊ウンディーネじゃない?」
そんな声まで聞こえて舞台に目を向ける。カロリーネの胸のあたりに水色の塊がフワフワ浮かんでいる。よく見ると小さな女の子の姿をかたどっているようだった。
(あの女の子がカロリーネさんの精霊なのね!)