モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
 皆の視線が痛すぎる。ユリアンや側近たちがどんな反応をしているか気になるものの、恐ろしくて見ることが出来なかった。

 縮こまって座っていたが、次にユリアンの名前が呼ばれたときにベアトリスはようやく顔を上げた。

 壇上に向かう彼の姿勢は美しく伸びていた。自信にあふれたその姿は、人の上に立つ者にふさわしい。

 ベアトリスの失敗で妙な雰囲気になっていた講堂内は、ユリアンの登場でたちまち憧憬の念にあふれたものに変わっていった。

 ユリアンが魔法陣の中央に立つ。祈る姿も文句なしに完璧だった。彼がなにかつぶやくと、周囲は神々しい銀の光に包まれる。

 やがて光が霧散して現れたのは、ユリアンと彼に従うように寄り添う巨大な蒼銀の狼の姿だった。

「あ、あれはフェンリル?」

 誰かの声をきっかけに講堂内は歓声に包まれる。

 ゲオルグたちが話しているのに聞き耳を立てた情報によると、フェンリルは氷をつかさどる最上位の精霊で、強力な攻撃魔法や強化魔法を使役できるようになるという、誰もが欲する能力を持つのだそうだ。

 たしかに見るからに強そうだ。さすがは王太子殿下と、人々が叫ぶ。

 ベアトリスと話しているときはしかめっ面だったユリアンも、今は喜びの表情だ。

 サファイアブルーの瞳を細めて、コスタ司教たちの祝福を受けている。
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