モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
悪女の変化
「ずいぶん早く済んだようだね」
裏庭から王族用の特別室に戻ったユリアンを、側近であり幼なじみでもあるゲオルグが意外そうな顔で迎えた]
「ああ……」
ユリアンはうなずき、長椅子にどさりと腰を下ろす。
「それで、婚約解消について話せたのか?」
向かいの椅子に座っていたツェザールが身を乗り出してきた。彼もユリアンの幼なじみのひとり。ダールベルクの王太子として常に気を張っているユリアンにとって、貴重な気の置けない友人たちだ。彼らもそれをわかっていて、ユリアンを王太子だからといって特別に扱わない。もちろん公の場では礼儀を弁えてはいるが。
自分の返事を待っているふたりの幼なじみに、ユリアンは「話していない」と気まずさを覚えながら答える。
冷静な性格のゲオルグはわずかに眉をしかめただけだが、直情的なツェザールは、ガタンと椅子から腰を浮かした。
「どうして!? ずっと婚約解消するチャンスを待ってたんだろ? 今を逃したら次はないかもしれないんだぞ?」
ユリアンは浮かない顔でため息をついた。ツェザールの言う通りだとわかっているからだ。
目を閉じると、華やかなローズピンクの髪とルビー色の瞳の美しい女性の姿が浮かんでくる。
ベアトリス・ローゼ・クロイツァー。ユリアンの悩みの種。
十年前に婚約した彼女は、最高の家柄と華麗な美貌、そして高い魔法の素養を持つ一見非の打ちどころがない令嬢だ。
婚約のための初顔合わせのとき、ユリアンは幼いながらも周囲を圧倒する美しさを持つ彼女にひと目惚れをした。