モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
　彼女が野外で、しかも食事の準備を自分でするなど考えられない。

　あぜんとしていると、さらに驚くことが起きた。

　ベアトリスが召喚した鳥形の精霊が現れて、一緒に食べ始めたのだ。　

　精霊が食事をしていることも、その様子を見てベアトリスが笑っている状況も、なにもかもが信じがたい出来事だった。

（彼女があんな表情をするなんて）

　精霊に食事を与えるベアトリスの表情はとても楽しそうだし、慈愛に満ちたものだった。

　明るい日差しの下にいるからか、彼女の周りがキラキラ輝いて見えた。

　白い肌が引き立つ艶やかな髪、優しさをたたえるルビー色の瞳。鈴を転がすような愛らしい声。

（これは……誰だ？）

　彼女はあんなふうに笑ったりしない。口角を上げて皮肉に微笑んでいるところくらいしか見た覚えがない。

　気がつけば足早に近づいていた。

　彼女はひどく驚き、落ち着きなく視線をさまよわせている。

　不安そうなその様子は、ユリアンの知っているベアトリスではなかった。

『……ここでなにをしているんだ？』

『え？　昼食をいただいているのですが』
『それはわかっている。なぜここで食べているんだ』
『ええと、落ち着いて過ごせるからですが』
　短い会話を交わすとますます違和感が膨らんだ。

（彼女はこんな話し方をしなかった）

　それに落ち着きなど求める性格ではない。常に取り巻きを従えていないと気が済まなかったというのに。
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