モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
「ユリアン。クロイツァー公爵令嬢と婚約解消するにはこのタイミングを逃せないとわかっているだろ?」
ゲオルグが読みかけていた本を閉じて言う。
「そうだぞ。ぼやぼやしていたらクロイツァー公爵が出てきて、下手したら結婚を早められるぞ」
ツェザールが憤慨する。ユリアンはため息をついた。
「わかってる。だが、もう少し様子を見たい」
「だからなんで」
「彼女の様子がおかしい」
じれったそうにするツェザールにそう答えると、ゲオルグが目を伏せた。
「ああ……それは俺も感じていたよ。たしかに最近の彼女は今までと違った言動をしている」
「違うってどんなだよ」
ツェザールは怪訝な顔でユリアンとゲオルグを交互に見る。
「殊勝な態度、とでも言うのかな。すっかりおとなしく品行方正になった。ユリアンにも近づいてこなくなったね」
「それは……そういえば最近顔を見てないが、殊勝ってのはゲオルグの勘違いだろ。あの女ほど殊勝って言葉が似合わない人間はいないからな。どうせ演技でまたなにか企んでいるに決まってる」
ユリアンは「そうだな」と相づちを打った。断言するツェザールの気持ちは理解出来る。
「だが、それは以前の彼女だったらの話だ。今のクロイツァー令嬢はよからぬことを企むようにはどうしても思えない」
「なに言ってるんだ? 去年の事件を忘れたのかよ!」
ベアトリスへの嫌悪感がひと際強いツェザールは、うんざりしたように吐き捨てる。
彼が激高するのも無理はない。それほどの問題をベアトリスは一年前に起こしている――。