モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
 お忍びだからか、いつもきっちり整えている艶やかな黒髪は洗いざらしのまま額を覆っている。シンプルな白いシャツにグレーのベスト、黒いスラックス。休日の騎士のような服装だった。しかし生まれ持った王族としての気品が滲み出ており、せっかく変装しているのにその辺を歩いていたらかなり人目を引きそうだ。

 さりげなく見ていたつもりが気づけばじっと見つめてしまっていたようで、ユリアンが視線に気づいてベアトリスを見た。

「どうした?」
「い、いえ、なんでもありません」

 慌てて視線を逸らしたが、内心かなり慌てている。

(め、目つきが鋭い……じろじろ見るなって思われたのかな)

 なにしろベアトリスはユリアンに相当嫌われている。

(嫌いな相手にじろじろ見られたら嫌なものよね)

「君に話がある。少し時間をもらいたいのだが」
「え?」
「不都合だろうか」
「い、いえ……大丈夫です」

 今度はなにを怒られるのだろうと、ベアトリスの背中を冷たい汗が伝っていく。

(休みに入ってからは学院の人と関わっていないし、目立つ行動はしていないけど)

 ただベアトリスの場合は、過去に派手にやらかし積み重ねてきた罪状がある。

 ユリアンがそれらのどれかをふいに思い出して、怒ってくる可能性はおおいにありそうだ。
 シスターに孤児院の面談室を借りて、ぎしぎしと嫌な音を立てる机に向かい合わせに座った。
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