モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
 結婚前の男女が密室でふたりきりになるのは避けなくてはいけないはずだが、ユリアンはためらいなく自らドアを閉めてしまった。

 緊張感でいっぱいになるベアトリスをユリアンがじっと見つめてきた。

「この部屋には音を遮断する結界魔法をかけた」
「えっ?」

(防音を徹底するなんて、どれだけ激しく怒るつもりなの?)

 ますます不安が大きくなり顔が引きつる。そんなベアトリスの心情はいっさい考慮されずに、ユリアンは続きを口にする。

「これから話すことは、他言無用にしてもらいたい」
「……はい」

(誰かに知られたら困るほどの暴言を吐くつもり? こ、怖すぎる……)

 ベアトリスはごくりと息をのみ、やって来るであろう罵倒を待つ。

「聖女が行方不明だ」

 ベアトリスはきょとんと目を丸くした。

(聖女様? な、なんだか思っていた話と全然違うのだけれど)

 内心首をかしげていると、ユリアンの目の色が剣(けん)呑(のん)なものに変化する。

「驚かないのだな……なぜだ?」

(なぜだ?って、こっちのセリフなんだけど! どうしていきなり不機嫌になるの? わけがわからない)

 ベアトリスは恐怖におびえながらも黙っているわけにはいかないので口を開く。

「あの、驚くというより、話の内容がよくわからなくて戸惑っています」
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