モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
 隣が王太子で前が側近という、ベアトリスをとくに嫌うメンバーが勢ぞろい。なんという苦行だろうか。

(一瞬たりとも気が抜けないわね)

 さっきみたいにニヤニヤしてたら、なにを言われるかわからない。

 背中を冷や汗が流れるのを感じながら、出来るだけ気配を消すことに努めていると今度は右隣の席に誰かが座った。

 今度は誰だとベアトリスは恐る恐る様子をうかがう。

(あら、この人って……)

 涼しげな紺色の髪に同色の瞳のなかなか綺麗な女性は、召喚式で一番に舞台に上がった人物だった。

(たしか、水の精霊を呼び出したのよね)

 初めて見た精霊だったので強烈に印象に残っているし、彼女の凛とした雰囲気も好感度が高いと思っていた。

(ええと、名前はたしか……)

 思い出そうとしていると、視線を感じたのか彼女がこちらに目を向けた。

 まともに視線が重なりベアトリスはどきりとしてあたふたする。彼女の方は初めからベアトリスの存在に気づいていたようで、落ち着いた様子で頭を下げた。

「クロイツァー公爵令嬢、はじめまして。私はカロリーネ・シェルマンと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

 ベアトリスは恐れられ嫌われているので、ほとんどの人は怯えるか逃げ出すか、または嫌悪感をあらわにするかだというのに、カロリーネにはそのような気配は見られなかった。

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