魔法のいらないシンデレラ
店先のおじいさんの作品からきれいな花瓶とプレートを選ぶと、仕上げてもらった自分の風鈴とともに、おじいさんに包んでもらう。

奈々も、グラスや箸置きを選んだ。

お支払を済ませ、満面の笑みでお店をあとにしようとした時、ようやく二人は、あっ!と思い出した。

「あ、あの!申し遅れました」

そう言って名刺を差し出し、話を始めると、途端におじいさんは口をつぐんだ。

「あの、突然このように押しかけて大変失礼致しました。ですが、実際に1つ1つの作品が丹精込めて作られるのを拝見して、やはり是非、わたくしどものホテルで取り扱いさせて頂きたいという想いが強くなりました。どうか、ご検討頂けないでしょうか」
「お願い致します!」

瑠璃と奈々は、揃って頭を下げる。

長い沈黙のあと、おじいさんがようやく口を開いた。

「わしは、誰かに自分の作品を売らせたことはない。通販やら、デパートやら、色んな人が売らせてくれとやって来る。そやけど、全部断ってきた。大事な作品が、よう分かってないやつらの手で触られて、売られていくのが嫌やからな」

瑠璃達は、頭を下げたまま聞き入る。

「そやから、自分の作品は自分でお客様に渡す。それでええか?」

は…?

瑠璃と奈々は、うつむいたまま顔を見合わせる。

「あんたらのホテルの屋台とやらに、作品並べるんやろ。ほんならわしが店番する。東京行ってな」

思わず顔を上げた二人に、おじいさんは初めて笑顔を見せた。
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