魔法のいらないシンデレラ
新館の宴会場をのぞくと、子ども達のにぎやかな声が聞こえてきた。

「ここだよ?よーく狙って…そう!やったー!」

射的のコーナーで、青木のよく通る声がした。

景品を手にする男の子とハイタッチをして、一緒に喜んでいる。

「課長、こちら清河さんです」

お客様がいなくなったタイミングを見計らって、瑠璃は青木に声をかけた。

「あ!これはこれは、遠いところをようこそお越しくださいました。わたくし、営業部企画広報課の青木と申します。今回は、わたくしどもにお力添えを頂きまして、本当にありがとうございます」

深々と頭を下げてから、他の社員にも声をかける。

「おい、みんな!清河様がお越しくださったぞ」
「あ!あの方が」

わらわらと皆は清河を取り囲むと、代わるがわる握手を求めた。

「この度は、本当にありがとうございます!」
「京都の老舗の職人の方が、私達のために東京に!とても嬉しいです」

清河は、終始照れたように握手に応じる。

「あの、もしよろしければ、清河様もやってみませんか?」

綿あめの割りばしを差し出しながら、山下がそう言うと、
おい、ばか!なにを言ってんだ、と周りが止めにかかる。

「ほう、それはなんですの?」
「え?あ、綿あめです」
「自分で作れるの?」
「はい!これをどうぞ!」

山下から割りばしを受け取ると、綿あめの機械を興味深そうにのぞき込む。

「味も選べますよ。普通の白い綿あめの他に、イチゴやメロンもあります」
「へえー!ほんなら、イチゴにしようかな」
「イチゴですね、よろこんで!」

山下は、ピンク色のざらめを機械の真ん中にザーッと入れた。

やがてウイーンという音がして、霧のようにピンクの綿あめが舞い始める。

「清河さん!割りばしで巻き取ってください」
「え、こうか?」

清河は、ていねいに腕を回して巻き取っていく。

「おおー、さすが職人さん!美しい仕上がりですね」
「ははは!こりゃおもしろい。子どもの頃を思い出すわ」
「清河さん、記念写真撮りましょう。綿あめも見せて…はい、チーズ!」

清河は照れながらも、にっこりと笑顔をみせた。
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