魔法のいらないシンデレラ
その夜、明日に備えて仮眠室に泊まることにした瑠璃と奈々は、妙に目が冴えて眠れずにいた。

「清河さん、楽しそうだったね。綿あめ作ったり」
「うん。笑顔がすてきだったね」

その一方、店を畳む…という言葉が頭から離れない。

「明日、いい日にしようね」

瑠璃の言葉に、奈々も頷いた。

「うん、頑張ろうね」

迎えた花火大会当日、空は朝からきれいに晴れ渡っていた。

ホテルはこの日、どこの部も大忙しになる。

駅からの連絡路があるホテルの2階からロビーへは、大勢の人が通リ抜けることが予想され、通路や階段は真ん中で仕切り、左側通行を徹底する。

瑠璃達も人通りを考えつつ、なるべく邪魔にならない広いスペースに屋台の準備をする。

テントを張り、風で飛ばされないようにしっかり固定し、テーブルも同じく重しをつける。

瑠璃は、テーブルの上にきれいな緋色の毛せんを広げた。

その上に、清河がていねいに作品を並べていく。

風が強くなれば、アクリル板を周りに置いたり、ガラスケースに入れたり出来るように用意していたが、今のところその心配はなさそうだった。

準備が整うと、瑠璃と奈々は浴衣に着替え、清河のピアスや帯飾り、かんざしなどを身に着ける。

鏡を見ながら、改めて瑠璃は、清河の作品にほれぼれした。

15時頃からぼちぼちと販売を開始する。

こんにちはー、京都のガラス工房のアクセサリーです、と声をかけると、浴衣姿の女の子達やカップルが足を止める。

「うわー、見て!かわいいー」
「え、これ、風鈴じゃない?」
「ちっちゃーい!でもちゃんと音も鳴るね」
「こんなピアス、初めて見た!」

早速女の子のグループが、色違いのピアスを買ってくれた。

瑠璃と奈々がお会計を担当し、清河が丁寧に包んでお客様に手渡す。

「おおきに」

そう言って包みを渡す清河は、心底嬉しそうだった。
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