魔法のいらないシンデレラ
静かな総支配人室。

一生、早瀬、そして麗華も、チラチラと瑠璃の様子を気にする。

そんな視線など全く気にせず、瑠璃はカタカタとパソコンを操作していた。

先程、瑠璃は麗華に、
ご用があればいつでもお申しつけくださいませ。わたくしはここで仕事をしておりますので。
と言って、早瀬の隣にパソコンを置いた。

早瀬は、
「瑠璃さん、こちら側に」
と言って、前回とは違う自分の左側に座らせた。

自分が電話に出られるように、との意図もあるが、何より麗華から少しでも遠ざけてやりたかった。

しばらくは、それぞれが自分のことに集中し、沈黙が続く。

と、ふいに瑠璃が立ち上がった。

ソファに近づくと、麗華様、と声をかける。

「な、何よ?」
「わたくしこれから、少し席を外させて頂きたいのですが、その前に何かお飲み物でもお持ちしましょうか?」
「いらないわ」
「かしこまりました。30分ほどで戻りますので」

そう言って一礼する。

瑠璃は早瀬に、庭園の写真を撮ってきますと断ってから出口に向かう。

「ちょっと待って」

その背中に麗華が声をかけた。

はい?と振り向いた瑠璃の横を通り過ぎながら、私も行く、と早口で言った。

二人が出ていったあと、早瀬は一生に急いでたずねる。

「どうしましょう、私も追いかけましょうか?」

一生は、考えを巡らせた。

先程の瑠璃の様子…落ち着いていた。

こちらの心配など、まるで気にする素振りもなかった。

「いや、任せよう。瑠璃さんに」
< 173 / 232 >

この作品をシェア

pagetop