魔法のいらないシンデレラ
「え、いいの?こんな立派なツリー、他で使わなくても?」
「ええ。逆に大きすぎてどこにも置けなくて…。総支配人室なら、広いし天井も高いし」
「確かに」

瑠璃は早瀬に、このツリーを総支配人室に飾りたいと申し出たのだった。

だが一生のいる前で、よいしょっと運び込み、飾り付けするのも味気ない。

そこで早瀬に協力を求めた。

「じゃあ館内の装飾と同じく、12月1日にしよう。厳密には、11月30日の深夜だね。業者がロビーにツリーを飾り付けるのに総支配人も立ち会うから、その隙に…」

瑠璃は頷いた。

「私もその日はオフィス棟に泊まることになっているので、いつでも連絡ください」

そして二人で携帯電話の連絡先を交換する。

今日のところはこれで、と早瀬が立ち去ろうとした時だった。

「あ、早瀬さん!少し待ってて頂けますか?」

そう言うと瑠璃は、企画広報課の部屋に入っていく。

なんだろうと思っていると、瑠璃はすぐに戻って来た。

その手に、きれいな花が飾られた花瓶を持っている。

え…と戸惑う早瀬に、瑠璃は笑顔で差し出した。

「早瀬さん、先週お誕生日でしたよね?少し遅くなりましたが…お誕生日おめでとうございます!」
「あ、ありがとう」

嬉しいのに驚きの方が大きく、上手く笑顔を作れない。

花瓶を受け取る際、瑠璃の手が触れて、思わずビクッとしてしまう。

「清河さんの花瓶、アーケードで選んだんです。早瀬さんのイメージに合うかなって」

波のようにきれいに流れるラインの、オーシャンブルーの花瓶。

そこに落ち着いた色合いのバラと、ダイヤモンドリリーが生けられていた。

自分のために選んでくれた、それがこうも嬉しいことなのかと、早瀬は胸が熱くなった。
< 192 / 232 >

この作品をシェア

pagetop