魔法のいらないシンデレラ
「本日の報告は以上です」
「分かった。今日はもう上がってくれ」
「はい」

22時を過ぎ、1日の業務報告と明日のスケジュールを一生に伝えた早瀬は、デスクに戻り鞄とコートを手にする。

「それではお先に失礼致します」
「ああ。お疲れ様」

パタンとドアが閉まり、一生は、ふうと息を吐いた。

早瀬のデスクに目をやる。

夕方、オフィス棟から戻ってきた早瀬は、きれいな花が生けられた花瓶を手にしていた。

そっと自分のデスクに置くと、角度を変えたり遠目に眺めたりしたあと、嬉しそうに微笑む。

瑠璃から贈られたものだということは、聞かずとも明らかだった。

花瓶も、清河の作品に違いない。

一生は、自分のデスクの花瓶を見ると、もう一度ため息をついた。

これを瑠璃から贈られた時、とても嬉しかった。

自分は瑠璃にとって、気にかけてもらえる存在なのだと、勝手に舞い上がっていた。

だがそうではなかったのだ。

周りの人に贈り物をする…彼女にとっては、ただそれだけの意味だったのだ。

それに…と一生は天井を仰ぐ。

早瀬の方が、自分よりはるかに瑠璃と親しい。

瑠璃も、早瀬には気を許しているような気がする。

早瀬も瑠璃も…自分にとってはどちらも大事な存在だ。

その二人を遠くに感じ、寂しさがこみ上げてきた一生は、3度目のため息をついた。
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