魔法のいらないシンデレラ
「すっかり遅くなったな。お前も今日は、プライベートルームに泊まったらどうだ?」

ロビーのツリーが完成したのを無事に見届けたあと、総支配人室に戻りながら、一生は早瀬に声をかける。

「いえ、オフィス棟の仮眠室に泊まります」
「ここに泊まったらいいじゃないか?どうせ部屋は空いてるんだし」
「いえいえ、総支配人の恋人が急に会いに来られるかもしれませんし」
「は?お前、いつからそんな妙な冗談言うようになったんだよ、まったく」
「クリスマスまでに彼女を作るって約束でしたよね?」
「そんな約束してないっての!」

そう言いながら総支配人室のドアを開けた一生は、次の瞬間、えっ…と固まった。

暗い、と思ったその時、ツリーのライトが瞬き、きれいなツリーが浮かび上がった。

「こ、これは…」

早瀬は一生の顔を見ながら、ふっと笑う。

「とあるスタッフが、一生さんに喜んで頂きたいと。あなたの幸せを、きっと誰よりも願っている人です」

参ったというように、一生はうつむいて笑う。

「なあ、早瀬」
「はい?」
「お前が言ってた景色、見えた。これが幸せの景色なんだな」
「はい」

そして早瀬に笑いかける。

「お客様にもこの感動を届けたい」
「そうですね」

早瀬も笑って頷いた。
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