魔法のいらないシンデレラ
顔を上げると、瑠璃が階段を下りてくるところだった。

真っ白なニットに、アイスブルーのフレアスカート。

胸元には、清河のネックレスが光っている。

ふんわりとした袖と、生地をたっぷり使ったスカートの広がりが、瑠璃の雰囲気にとてもよく合っていて、早瀬は思わず言葉を失って見とれた。

「お疲れ様です。どうかしましたか?早瀬さんもどなたかと待ち合わせですか?」
「あ、いや、違うんだ。実は君を待っていて…」

ドギマギしながらそう言うと、瑠璃は驚いたように首をかしげる。

「私を?何かご用ですか?」
「あ、うん、その…不躾なんだけど、瑠璃さん、今夜は何か予定ある?」
「いいえ、このまま家に帰るところです」
「そ、そうか!なら、良かった。あの、少し残業をお願い出来ないかな?」
「残業ですか?」
「うん。実は俺、今日は定時で退社することになって。でも一生さんはこのあとも仕事がある。それで、総支配人室に夕食が運ばれてくるから、それを一生さんにサーブしてくれないかな?俺の分も運ばれてくるから、それは君に」
「ええ、それは構いませんけど…」

そこまで言って、瑠璃は、あっと何かに気づいたような表情をした。

「かしこまりました。どうぞご心配なく。さあ、もう行ってくださいね。メリークリスマス!すてきな夜を」

そう言って瑠璃は、笑顔を残して去っていった。

「メリークリスマス。どうか俺の大切な二人が幸せになりますように…」

瑠璃の背中を見ながらそっと呟く。

「さてと!サンタクロースはこれから忙しくなりますよ」

自分に気合いを入れると、早瀬はフロントへと向かった。
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