魔法のいらないシンデレラ
帰りの電車は、朝とは違ってギュウギュウに混んでいた。

それでも皆、どこか嬉しそうに顔をほころばせている。

瑠璃だけは、どんよりと何かがのしかかっているような暗い表情をしていた。

(信じられない。私ってどうしてこんなに間抜けなの?)

自分があと3ヶ月で無職になるなんて…

しかもそれを、よりによってクリスマス・イブに知るなんて…

けれど、愚痴をこぼす訳にもいかない。

前から決まっていたことを理解していなかった自分が悪いのだ。

この職場は、ほとんどの人が2年ほど働いたら結婚して辞めていくなと思っていたけれど、ほとんどもなにも、皆、最初から2年の契約だったのだ。

一般社会どころか、お嬢様達の職場ですらこんなに浮いているようでは、もはや自分は全くの能無しと言われている気がした。

(それにこの間だって、あんな忘れ物を…)

おとといの同窓会。

履き慣れない高いヒールで足が痛くなり、こっそりテーブルの下で靴を脱いでいた。

ふかふかの絨毯が疲れた足に心地良く、ロングドレスを着ていたおかげで気づかれないのをいいことに、瑠璃は会の後半はずっと裸足で過ごしていた。

そして信じられないことに、そのまま会場をあとにしたのだ。

ホテルの車寄せから迎えの車に乗り、家に着いて一歩足を下ろした瞬間、ヒヤッとした感触に驚いてようやく思い出した。

どうかした?とドアを開けてくれている高志に聞かれ、恥ずかしさのあまり、なんでもないと首を振ってしまった。

(あの靴…どうなったのかな?ホテルの人に気づかれたかしら)

それはそうだろう。
きっと忘れ物として、保管されているに違いない。

今日の和樹との約束も、やはりあのホテル。

(帰りにフロントで問い合わせてみよう。情けないけれど…)

瑠璃はもう一度ため息をついた。
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