魔法のいらないシンデレラ
このホテルに来るのは、今月に入ってからもう3度目。

だが瑠璃は、今までとは明らかに違うロビーの人の多さに目を丸くした。

ツリーの周りはもちろん、ロビー中がごった返していて、まるでパーティー会場のようだ。

いつもの待ち合わせ場所の大きな柱に着いた瑠璃は、和樹の姿を探す。

約束の時間まであと3分。

和樹もそろそろ来ているはずだが、混雑していてうまく探せない。

と、ふいに手にしていたスマートフォンが鳴る。

表示を見ると、和樹からの電話だった。

「もしもし、瑠璃?もう着いてる?」

周りの音で声が聞き取りにくく、瑠璃はエントランスから外に出た。

「ええ。着いてます」
「そしたらさ、エレベーターで20階まで来てくれる?そこで待ってるから」

そして一方的に電話は切れた。

(え?もう、何なの?)

とにかく行くしかない。

瑠璃は、人混みをかき分けながらエレベーターに乗り、20階で降りた。

長い通路の真ん中に、手を挙げている和樹の姿が見える。

「瑠璃、こっち」

通路を歩き始めた瑠璃は、次第に怪訝な顔になる。

てっきりレストランの入口か何かに呼ばれたと思いきや、通路の両側には客室がずらりと並んでいるだけだ。

和樹のもとにたどり着くと、やはりそこも客室のようだった。

「さ、入って」

ドアを開けてうながす和樹に、瑠璃は戸惑う。

「ここって客室?どうして?」
「今日はクリスマス・イブで、レストランはどこもかしこも混んでるだろ?ゆっくり落ち着いて食事も出来そうにないから、ルームサービスにしたんだ。今、セッティングしてくれてる」
「ルームサービス?」

部屋の中をのぞき込むと、奥のテーブルの脇にスタッフの姿が見えた。

瑠璃と目が合うと、にこやかな笑顔でお辞儀をしてくれる。

瑠璃も慌てて頭を下げた。

「どうぞ」

もう一度和樹に言われ、瑠璃はようやく部屋に足を踏み入れた。

大きな窓から、きれいな夜景が目に飛び込んでくる。

その窓の近くに、真っ白なクロスが敷かれたテーブルがあり、たくさんの食器が並んでいた。

スタッフが引いてくれたふかふかの椅子に、瑠璃はそっと腰を下ろす。

向かい側に和樹も座ると、スタッフは丁寧にお辞儀をした。

「本日はようこそお越しくださいました。お食事はすべてご用意してありますので、あとはお二人でごゆっくりお楽しみください」

何かございましたら、いつでもご連絡を…と言い残して、部屋から出て行く。
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