魔法のいらないシンデレラ
デザートのケーキは、ソファテーブルに用意されていた。

コーヒーを淹れて、ソファに並んで座る。

すると和樹が、ジャケットのポケットから小さな箱を取り出した。

「はい。クリスマスプレゼント」

あっ…と瑠璃は小さく呟くと、うつむいた。

息を吸って気持ちを整える。

今日こそは和樹に話をするつもりだった。

「ごめんなさい。それは受け取れません」

頭を下げると、和樹が一気に不機嫌になったのが、気配で伝わってきた。

「はあ?何言ってんの。どういうつもり?」
「和樹さんからのプレゼントは、これからも受け取れません。私、今日は大事なことをお話したくて来ました」
「はあーん。さてはお前、俺へのプレゼントを用意してないんだろ?」
「え?あの、そういうことではなくて、お話を…」

実際プレゼントは用意していなかった。

なぜなら、今日はお別れを言いに来たからだ。

「今まで、なんとなくごまかしてきてごめんなさい。もっと早くお話するべきでした。私、和樹さんとは…」
「いいって。プレゼントを用意してないって言うなら、これで許してやる」
「え?あの…」

瑠璃が顔を上げたその時だった。

頭の後ろをぐっと押さえられたかと思うと、和樹が顔を近づけてきた。

唇が触れそうになった瞬間、瑠璃は反射的に和樹を突き飛ばしていた。

「いやっ!」

ガチャンと音を立ててテーブルの上のカップが倒れ、コーヒーがこぼれる。

一瞬の静けさの後、和樹は憤りを抑えられずに声を荒げた。

「何なんだよ、お前は!いつもいつも、どうやっても俺を拒んでばかりで。俺にどうしろっていうんだ。どういうつもりなんだ?!」

勢いに負けそうになりながら、瑠璃は気持ちを必死で落ち着かせて和樹に向き合った。

「ごめんなさい。私、あなたとはこれ以上おつき合い出来ません。結婚するつもりもありません。ずっと前からそう思っていたのに、言い出せなくて。本当にごめんなさい」

和樹は下を向いたまま、何も言わない。

肩を震わせ、自分の気持ちを持て余しているようにも見える。

「あの、和樹さん…」

心配になって思わず瑠璃が口を開くと、何かを小さく呟く和樹の声が聞こえてきた。

「…てけ」
「え?なんて…」
「出てけって言ってんだよ!」

そう言って顔を上げた和樹の表情は、怒りと悲しみに満ちていた。
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