魔法のいらないシンデレラ
総支配人室の奥には、2部屋のプライベートルームがある。

そのうちの片方は、主に一生が寝泊まりに使っていた。

もう片方の部屋のベッドに女性を寝かせると、一生は、カーテンを閉めたりエアコンを調節している早瀬に声をかける。

「お前はもう上がっていいぞ。遅くまで悪かった。明日は休みにしていい。って言っても日付けが変わってもう今日だけどな」

早瀬は、驚いたように振り返る。

「いえ、そんな訳には。クリスマスでホテルは忙しい日になりますし」
「構わん。俺一人で大丈夫だ。ただ、何かあったら連絡するから、その時は駆けつけてくれ」

そう言いつつ、何があっても早瀬に連絡するつもりはなかった。

「はい、かしこまりました。いつでもご連絡ください」

それでは失礼致します、とお辞儀をしてから立ち去ろうとする背中に、早瀬、ともう一度呼びかける。

「はい」

こちらに向き直る彼に、一生は笑いかけた。

「メリークリスマス。よい一日を」

一瞬驚いたあと、早瀬は若者らしい笑顔を見せた。

「メリークリスマス。総支配人もよい日を」
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