魔法のいらないシンデレラ
きれいな器に盛りつけられた品は、1つ1つが小さくて見た目も美しい。

食べるのはもったいないと思いながら、瑠璃は懐石料理をじっくり味わい、心も体も満たされた。

食事のあとは、女将に勧められた庭園に行ってみる。

庭園へのたった1つの入口は、お店の通路に繋がっており、そこからしか出入りは出来ない。

瑠璃は、なるべく踏み荒らさないように気をつけながら、ゆっくりと木々や花を見て回った。

「きれいねえ。これは椿かしら?」

赤い花を咲かせる木の前で、佐知が立ち止まる。

瑠璃は隣に並んで、じっくり見てみた。

椿にしては花が平たく、葉もギザギザしている。

「これは、サザンカじゃないかしら」

瑠璃が首をかしげながら言うと、足元の札を見たらしい佐知が、
「ご名答よ。瑠璃ちゃん、すごいわね」
感心したような声を上げた。

瑠璃は少し照れたように笑い、もう一度花に顔を近づける。

澄んだ空気の中、凛として咲く鮮やかな色合いのサザンカ。

(すごいなあ。寒さに負けず、こんなにきれいに咲くなんて)

こんなふうに、自分も強くなりたい。

そんな想いで眺めていると、ふいに後ろで、カシャッとカメラのシャッター音がした。
< 48 / 232 >

この作品をシェア

pagetop