魔法のいらないシンデレラ
瑠璃は驚いて振り返る。

「いや、これは失礼。美しくて思わずシャッターを切ってしまった」

一眼レフのカメラから顔をのぞかせて、若い男性が笑いかけてきた。

「まあ、いったい何ですの?」

怪訝そうに、佐知が二人の間に割って入る。

どうやら、いきなり瑠璃の写真を撮ったことに抗議するつもりらしい。

「失礼しました。私、こういう者です」

男性は、ポケットから名刺を取り出すと、佐知に差し出す。

「あら、プロのカメラマンの方?」
「ええ。と言ってもたいして売れていませんが」

ははっと笑って、頭に手をやる。

まだまだ駆け出しのプロカメラマンといったところなのだろうか。

「実は、このホテルのフォトコンテストに応募しようと、この庭園を撮影していました。そしたら、こちらのお嬢さんが目に留まり、花とのコントラストがとても美しく、思わず…」

そう言って、カメラの画面を操作して佐知と瑠璃に見せてくれる。

そこには、サザンカの花に顔を寄せた、うつむき加減の瑠璃の横顔が写っていた。

「まあ!すてきだわ」

佐知が口元に手をやりながら、うっとりとした。
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