魔法のいらないシンデレラ
すると急に、佐知が妙にしんみりした口調になる。

「瑠璃ちゃん、本当にありがとう」
「え?おば様、急にどうされました?」
「ううん、いつも言おうと思っていたの。瑠璃ちゃんがこうやって私につき合ってくれて、本当に嬉しい」

手に持ったカップに目を落としながら、佐知はゆっくり話を続ける。

「私ね、和樹のあとに女の子が欲しかったの。でも結局授からなくてね。女の子が二人もいる美雪さんがうらやましくて仕方なかった」
「え…」
「あんなにかわいらしい女の子、私のところにも来てほしかったなって。だけど、藍ちゃんや瑠璃ちゃんが、おば様って慕ってくれて…まるで自分の娘のような気がしてきたの。勝手にそんなこと思っていてごめんなさいね」

瑠璃は、すぐさま首を振る。

「夢だったのよ。自分の娘とこうやってランチに出かけたり、お茶したり。それが今、こんなふうに瑠璃ちゃんといられて、夢が叶ったわ。ううん、夢以上ね。だって瑠璃ちゃんは、こんなにもすてきなお嬢さんで、上品で着物姿も美しくて…自分の娘ならこうはいかなかったわ」

ふふふ、と笑ってから、佐知は瑠璃をじっと見つめた。

「和樹のことだって色々あるでしょうに、どんな時でも私につき合ってくれて、本当にありがとう」
「あ、あの…」

和樹の話題にうろたえている瑠璃に、佐知は笑顔で頷く。

「あの子は、一人息子ということもあって、わがままに育ててしまったわね。もっと周りの人に、素直に感謝出来る人間にならなければいけない。瑠璃ちゃんにも散々迷惑をかけたでしょう?ごめんなさいね。なにせあの子ったら、瑠璃ちゃんのこととなると、理性も何も吹き飛んじゃうのよ」

そしてまた小さく笑う。

「おば様、あの…」

瑠璃が口を開こうとするが、佐知はそれをサラッとかわす。

「和樹、最近ようやく落ち着きを取り戻したみたいね。瑠璃ちゃんの幸せを、きっと誰よりも願っていると思うわ。あ、もちろん私もね」

お嫁にいくときは、私も式に呼んでね、とつけ加えて、佐知は瑠璃に笑いかけた。

「おば様…」

涙がこぼれそうになるのを、瑠璃は必死で堪えていた。
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