魔法のいらないシンデレラ
そして迎えた3月4日。

瑠璃は佐知と一緒に、再びあのホテルのロビーに向かう。

「それでね、古谷(ふるや)さんったら、私と瑠璃ちゃんを親子だと思っていたんですって」

古谷さん?と、一瞬疑問に思ったが、話の流れからすると、カメラマンのことだろうと瑠璃は推察する。

「考えてみたら無理もないわよね。でも私、瑠璃ちゃんの母親と思われたのが嬉しくって。そのまま親子のフリをしようかと思ったくらいよ。なんて、美雪さんに叱られるわね」

佐知は、この上なく上機嫌で、瑠璃の相づちなど耳に入らないかのように話し続ける。

「どんな写真に仕上がったのかしらねえ。楽しみだわ。あ!いらしたわ、あの方よね?」

佐知の視線を追うと、ロビーの中央のソファから立ち上がるスーツ姿の男性が見えた。

服装は違うけれど、確かにあの時のカメラマンだった。

にこやかな笑顔を浮かべ、瑠璃達に深々とお辞儀をしている。

「お待たせ致しました」

佐知が近づきながら声をかけた。

「いえ。こちらこそ本日はお越し頂き、ありがとうございます」

男性はもう一度丁寧に頭を下げてから、瑠璃を見て嬉しそうに笑った。

「写真と同じお着物ですね」
「あ、ええ」

瑠璃は、はにかんだ笑顔を浮かべる。

あの日と同じ装いがいいと佐知に言われ、それに従ったまでだが、男性は予想以上に喜んでくれたようだ。

「やはりとてもお美しい。お気遣い頂いて、恐縮です。申し遅れましたが、私、カメラマンの古谷と言います。よろしくお願いします」

渡された名刺を見ると、
フリーカメラマン 古谷 心平
とある。

「私は早乙女 瑠璃と申します。こちらこそ、よろしくお願い致します」
「瑠璃さん…きれいなお名前ですね」
「え…あ、ありがとうございます」

と、隣から佐知の咳払いが聞こえてきた。
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