魔法のいらないシンデレラ
「この写真のポイントは、なんと言ってもサザンカと女性の対話です。冬の寒さに負けずに、艷やかな花を咲かせるサザンカ、そしてそれを見つめる女性の横顔からも、何か秘めたる強さを感じます。着物の白とサザンカの赤、このコントラストもいいですね。冬の澄んだ空気に、凛とした花と女性の佇まい…まさに冬をテーマにした作品として素晴らしいと思います」

間髪を置かずに、佐知が拍手する。

会場からも、大きな拍手が起こった。

うながされて、古谷がマイクで話し始める。

「この度は、栄えある賞を頂き、とても嬉しく思います。ありがとうございます」

お辞儀をしたあと、少し考えるように間を置いてから顔を上げる。

「この作品は、私の力で撮ったのではなく、撮らせて頂いた、そんな感覚です。偶然その場に居合わせて、思わずシャッターを押しただけなんです。そして、私にこの写真を撮らせてくれた女性が、実は今日ここにいらっしゃいます。瑠璃さん、ご登壇願えますか?」

いきなり名前を呼ばれて、飛び上がりそうなほど瑠璃は驚いた。
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