魔法のいらないシンデレラ
美味しそうなケーキと紅茶をふるまわれ、ひと口頂いたところで、
早速なのだけど…
と、佐知が身を乗り出してくる。

「あのね、今日来てもらったのは他でもない、古谷さんのことなの」
「え、あの方が、まだ何か?」
「そう。夕べメールが届いてね。あ、これ、プリントアウトしたものなの」
「どれどれ?」

紅茶のカップを置いて、横から和樹が手を伸ばす。

「拝啓、寒さも日に日に和らぎ、桜の開花の便りも待ち望まれる折から、澤山様と瑠璃様におかれましても…なっがいなー前置き」

和樹は、サッと目を通して読み飛ばす。

「えー、本日ご連絡致しましたのは、私がかのホテルから、ある依頼を受けたことに始まります。コンテストの授賞式で司会をされていた、営業部企画広報課の青木様より、ホテルのパンフレットの撮影を、畏れ多くも私に依頼したいとのご連絡がありました」

(パンフレットの撮影?うわー、すごい)

瑠璃は心の中で、自分のことのように喜ぶ。

「身に余るお話でしたが、謹んでお受けすることにし、早速ホテルで打ち合わせをさせて頂きました。青木様がおっしゃるには、外国のお客様向けのパンフレットも一新するとのことで、ホテルの四季や、和のテイストを特に強調したいとのことでした。そこでまず思い浮かんだのは、先日のフォトコンテストの写真です」

ギクリとして、瑠璃は壁の写真を横目で見る。
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