魔法のいらないシンデレラ
「えっ、そうでしたか!」

嬉しそうな表情をしたあと、慌てて青木は真顔に戻る。

「あ、その、失礼致しました」
「いえ、大丈夫です。もともと2年間の契約で、めでたく期間満了となりましたから」

瑠璃が微笑むと、青木はホッとしたように笑った。

「でしたら是非、わたくしども企画広報課で、アルバイトという形でパンフレットの制作に関わって頂けませんか?時給制となりますので、無理にとは申しませんが…」

瑠璃は少し考えてながら口を開く。

「いえ、アルバイトでももちろん構いません。ただ、私のような無能でホテルの知識もない人間が、果たしてお役に立てるかどうか…」
「その点でしたら、あえて今回は知識のまっさらな方の意見を取り入れたいと考えています。お客様に近いお一人として、率直にご意見をうかがえたらと。いかがでしょうか?」

うーん…と瑠璃は考え込む。

やってみたいという気持ちと、果たしてご迷惑にならないかという不安…

どちらも半分ずつという感じで、決断出来ない。

すると、佐知が瑠璃の顔をのぞき込んできた。

「いいお話じゃない。やってみたら?瑠璃ちゃん」

古谷も大きく頷く。

「私も、瑠璃さんが一緒に手伝ってくださると心強いです」

どうしよう、思い切ってやってみようか…

「あの、私なんかで本当に大丈夫でしょうか?」

おずおずとそう確認すると、青木は力強く頷いた。

「もちろんです。今日1日拝見していて、瑠璃様はとても上品で立ち居振る舞いも美しく、ホテルの顔になって頂ける存在だと感じました」
「ええ?!それは買いかぶり過ぎです。そんなふうに言われると、逆に自信が…」

瑠璃がうつむくと、青木は慌てて手を振った。

「あ、いえ、そんな重責を負わせるつもりはなくてですね…。とにかく!そのままの自然体でいてくだされば充分ですから!ぜひとも、お願い致します」

もう一度考えたあと、瑠璃は意を決して頷いた。

「分かりました。私に出来ることを、精いっぱい務めさせて頂きます」

青木はぱっと顔を上げて、満面の笑みを浮かべた。
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