悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
「リディ!」
「あら、クリス様」
生徒会室に一人戻るところへ、クリス様が迎えに来てくれていた。何故私がこっちに戻ると分かったのかしら。どこか焦った表情をしていたので、何かあったのか聞こうとした、その瞬間。
「っ!」
クリス様がつかつかと私の目の前に来たかと思うと、私の右手を引いてそのまま抱きしめられた。突然の強い力に驚いて声が出ない。
「……リディ」
「はい?」
「誰かに、会った?」
私を抱き締めたまま、少し震えた声でクリス様が訪ねてくる。顔が見えないのでよく分からないが、誰かに会ったかしらと思い出す。
ステラと一緒に生徒会室を出て、泣かれて、それから──。
「あぁ! アラン様にお会いしましたわ! わたくし達の婚約披露パーティ以来でしょうか。お元気そうでしたけれど……何かご用事でしたか?」
「いや……」
「聖騎士団の仕事がお忙しいのかしら。学園でも全然お会いしないですものね。クリス様はアラン様とも仲が良いのでしょう?」
ぎゅーぎゅーとクリス様の腕の力が強くなる。く、苦しい。
「あ、あの? クリス様?」
「アラン……」
あ、もしかしてアラン様に嫉妬してます? クリス様ったら、ステラにこの先心変わりするくせに!
でもこのままだと、アラン様が学園に二度と来れないように手配されてしまって、ステラとの恋路が上手くいかなくなる予感しかしない。まずい!
「えーっと……そうそう! アラン様は『不可抗力』だとおっしゃっておりました!」
「……不可抗力?」
わぁどす黒い声! 怖いですよ! 素敵な王太子様が出す声じゃないですよ! ぎゅーぎゅー締め付けられて苦しいけれど、何とか私は話し続けた。
「クリス様達がステラさんに冷たい態度を取るので、ステラさんが泣いてしまわれて。あのままだと周りの方々の目には、私がステラさんをいじめているかのように映ったと思いますわ。そのギリギリのあたりでアラン様がいらっしゃって、泣いているステラさんを宥めてくださったのですわ」
「アランが」
「ええ。そこで、『不可抗力』だと何故だか私に念押しされておりました」
今になって思うと、こうやってクリス様に『不可抗力』だと訴えろという意味だったような気がしてくる。それは正解だったようで、クリス様は納得したのか、少しだけ腕の力を緩めてくださった。ああ、息がしやすいわ。
「……私がリディを救いたかった」
拗ねた声が珍しくて、思わず笑ってしまう。するとコテンとクリス様が自分の頭を私の肩に乗せてきた。可愛い。
「ふふっ」
「何故笑うんだ」
「だって、可愛らしくて」
「かっこよく救えるようになりたいんだが」
「今、救ってくださっていますよ? クリス様の腕の中は、温かいですね」
「リディ」
少しだけまた力が込められた抱擁は、私が苦しくないよう配慮したような力加減で、その優しさと温もりに私はほっとした。こうして抱きしめてもらえるのはあと何回だろう。これが最後じゃないといいな。
「お友達って難しいですわ。喜ばせてあげたいけれど、大切な人達を困らせたくはありません」
「冷たい態度で悪かった。でも、やはりランチは落ち着くメンバーでとりたい」
「はい。突然お友達を連れてきてしまって、申し訳ありませんでした」
二人でそれぞれ謝罪して、私たちは生徒会室へと戻ったのだった。
「あら、クリス様」
生徒会室に一人戻るところへ、クリス様が迎えに来てくれていた。何故私がこっちに戻ると分かったのかしら。どこか焦った表情をしていたので、何かあったのか聞こうとした、その瞬間。
「っ!」
クリス様がつかつかと私の目の前に来たかと思うと、私の右手を引いてそのまま抱きしめられた。突然の強い力に驚いて声が出ない。
「……リディ」
「はい?」
「誰かに、会った?」
私を抱き締めたまま、少し震えた声でクリス様が訪ねてくる。顔が見えないのでよく分からないが、誰かに会ったかしらと思い出す。
ステラと一緒に生徒会室を出て、泣かれて、それから──。
「あぁ! アラン様にお会いしましたわ! わたくし達の婚約披露パーティ以来でしょうか。お元気そうでしたけれど……何かご用事でしたか?」
「いや……」
「聖騎士団の仕事がお忙しいのかしら。学園でも全然お会いしないですものね。クリス様はアラン様とも仲が良いのでしょう?」
ぎゅーぎゅーとクリス様の腕の力が強くなる。く、苦しい。
「あ、あの? クリス様?」
「アラン……」
あ、もしかしてアラン様に嫉妬してます? クリス様ったら、ステラにこの先心変わりするくせに!
でもこのままだと、アラン様が学園に二度と来れないように手配されてしまって、ステラとの恋路が上手くいかなくなる予感しかしない。まずい!
「えーっと……そうそう! アラン様は『不可抗力』だとおっしゃっておりました!」
「……不可抗力?」
わぁどす黒い声! 怖いですよ! 素敵な王太子様が出す声じゃないですよ! ぎゅーぎゅー締め付けられて苦しいけれど、何とか私は話し続けた。
「クリス様達がステラさんに冷たい態度を取るので、ステラさんが泣いてしまわれて。あのままだと周りの方々の目には、私がステラさんをいじめているかのように映ったと思いますわ。そのギリギリのあたりでアラン様がいらっしゃって、泣いているステラさんを宥めてくださったのですわ」
「アランが」
「ええ。そこで、『不可抗力』だと何故だか私に念押しされておりました」
今になって思うと、こうやってクリス様に『不可抗力』だと訴えろという意味だったような気がしてくる。それは正解だったようで、クリス様は納得したのか、少しだけ腕の力を緩めてくださった。ああ、息がしやすいわ。
「……私がリディを救いたかった」
拗ねた声が珍しくて、思わず笑ってしまう。するとコテンとクリス様が自分の頭を私の肩に乗せてきた。可愛い。
「ふふっ」
「何故笑うんだ」
「だって、可愛らしくて」
「かっこよく救えるようになりたいんだが」
「今、救ってくださっていますよ? クリス様の腕の中は、温かいですね」
「リディ」
少しだけまた力が込められた抱擁は、私が苦しくないよう配慮したような力加減で、その優しさと温もりに私はほっとした。こうして抱きしめてもらえるのはあと何回だろう。これが最後じゃないといいな。
「お友達って難しいですわ。喜ばせてあげたいけれど、大切な人達を困らせたくはありません」
「冷たい態度で悪かった。でも、やはりランチは落ち着くメンバーでとりたい」
「はい。突然お友達を連れてきてしまって、申し訳ありませんでした」
二人でそれぞれ謝罪して、私たちは生徒会室へと戻ったのだった。