悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
「ところでリディア嬢」
意外にもアラン様が話しかけてくれたので、私は驚いた。指一本触れないが、話しかけてはくれるようだ。
「な、なんでしょう?」
「その剣はなんだ」
「へ?」
私が令嬢らしからぬ帯剣した姿で現れたことに疑問を持ったようだ。
当たり前だが、普段の学園生活では帯剣できず、家に帰ってから剣の修行をする日々。王太子妃教育も始まり鍛錬の時間が減ってしまっている今、少しでも剣に慣れ親しんでおきたい。しかも今日はもしかしたら魔物戦もあるかもしれないし、剣を学園に持ち込んでみたのである。
ただ、肝試しをしにやってきたアラン様にとっては不思議なのだろう。アラン様も聖騎士団の騎士服に帯剣し完全武装しているのだから、お互い様だと思うのだけれど。
「夜の学園だなんて物騒じゃないですか。なんとなく帯剣していないと落ち着かなくて」
「そうか」
令嬢らしからぬ理由ではあるが、もっともな言い訳を述べる。聖騎士のアラン様は、どうやらそれで納得したようだ。会話が終了してしまった。気まずい……!
「……ではそろそろ出発するか」
「はい……!」
ステラとクリス様から遅れて出発する。二人は今、どんなことを話しているんだろう……。
胸の奥がモヤモヤとするが、それには気づかないように蓋をして、私はアラン様と二人、夜の学園へと足を運んだ。
*
第一校舎を出て中庭に入り、第二校舎へと向かう道中に、ステラ達はいた。中庭には魔石で明かりが灯る灯籠があり、少し明るい。とはいえ、日中とは違う雰囲気で、不気味と言えば不気味だ。意中の相手ならば、「こわーい」と言って抱きつきでもすれば一つのイベントにでもなり得そうだが、クリストファーは先程からずっと不機嫌で取り付く島もない。
このペアになってしまったことが要因だろう。だが、そこまで怒ることでもないとステラも機嫌を悪くしていた。
「クリス様って、リディア様に執着しすぎじゃありません? しつこい男って嫌われちゃいますよ?」
思わず意地悪な発言をするステラ。リディアの名が出ると、クリストファーは必ず狼狽える。
「なっ! リディアがそんなことを?」
「リディア様が言うわけないじゃありませんか! あの方は魔法と剣のことばっかり考えて筋トレしてます」
「そ、そうだな……」
令嬢の噂話としては褒められたものではないが、事実である。
ステラの前世の記憶では、リディアは『悪役令嬢』だった。だが、ステラが入学時に前世の記憶を手に入れた時点で、彼女は『聖女』扱いされていた。その上、魔法のレベルも高く、剣術まで極めようとしている。しかも、攻略対象者であるはずのクリストファーは、ステラに見向きもしなかった。
「ちゃんと繋ぎ止めておかないと! 他の男に盗られちゃいますよ!」
「分かっている」
「リディア様も無自覚系だからなぁ。こっちも世話が焼けますよ」
「?」
アラン様と一緒に巡りたかったが、今日はレベル上げの日だ! と意気込んで、ステラはひっそりと、ルート外の道にクリストファーを巻き込んで進んでいった。
*
「キースはこの先のこと、どこまで考えてる?」
「この先のこと、とは?」
裏庭から庭園へと抜け、スタート地点の正門まで戻る途中のキースとディーン。二人は至って順調に進んでいた。苦手な女子とのペアでなかったディーンが張り切って進み、肝試しというよりは、男二人で雑談をしつつ散策したようなものだった。
「この先って未来のことだよ。魔王が本当に復活するのか、とか。家を継いだ後のこと、とか」
「魔王は復活するのだと思います。あなたの妹君が女神の声を聞いたのですから」
「信じてくれるんだな。ありがとう」
ディーンが柔らかく笑う。それにつられてか、キースも少し照れたように本音を呟いた。
「親友の妹君の言うことです。信じますよ。……その後のことは、正直まだ何も」
「だよな。俺も。結婚、いずれするんだろうけど。俺はお嫁に来てくれる令嬢と、うまくやれるんだろうかって今から不安になる」
「ははっ。私もです。私は何よりもクリスを一番に行動するでしょうから、それに理解を示してくれるような女性でないと無理ですね」
「うわぁ。難しそうだ」
「現に私の母は逃げていますしね」
キースの母親は領地に引きこもり、滅多に王都にはやってこない。ここ数年は確実に来ていない。王都の社交を一切ボイコットしている。宰相であるキースの父親は王都を離れるわけにもいかず、長く別居状態にある。これは公務を優先しすぎて、長く奥方を放っておいたせいだとか。
「宰相の嫁って大変なんだなぁ」
「公爵家の嫁ももっと大変そうですけれどね」
「「はぁ〜」」
二人の令息達が、ため息を吐いていた時のことだった。
バァン!!!!!
空に火花が散る。魔法でうちあげた炎の魔法だ。花火によく似たこの魔法は、遠方にいる仲間にSOSを知らせたいときに使う。ただしこの魔法は自分の現在位置を正確に伝えてしまうため、戦場では使えない。
「何かあったのかも。行こう」
「ああ!」
そうして二人は今帰ってきた道を戻り、裏庭の方へと走りだしたのだった。
意外にもアラン様が話しかけてくれたので、私は驚いた。指一本触れないが、話しかけてはくれるようだ。
「な、なんでしょう?」
「その剣はなんだ」
「へ?」
私が令嬢らしからぬ帯剣した姿で現れたことに疑問を持ったようだ。
当たり前だが、普段の学園生活では帯剣できず、家に帰ってから剣の修行をする日々。王太子妃教育も始まり鍛錬の時間が減ってしまっている今、少しでも剣に慣れ親しんでおきたい。しかも今日はもしかしたら魔物戦もあるかもしれないし、剣を学園に持ち込んでみたのである。
ただ、肝試しをしにやってきたアラン様にとっては不思議なのだろう。アラン様も聖騎士団の騎士服に帯剣し完全武装しているのだから、お互い様だと思うのだけれど。
「夜の学園だなんて物騒じゃないですか。なんとなく帯剣していないと落ち着かなくて」
「そうか」
令嬢らしからぬ理由ではあるが、もっともな言い訳を述べる。聖騎士のアラン様は、どうやらそれで納得したようだ。会話が終了してしまった。気まずい……!
「……ではそろそろ出発するか」
「はい……!」
ステラとクリス様から遅れて出発する。二人は今、どんなことを話しているんだろう……。
胸の奥がモヤモヤとするが、それには気づかないように蓋をして、私はアラン様と二人、夜の学園へと足を運んだ。
*
第一校舎を出て中庭に入り、第二校舎へと向かう道中に、ステラ達はいた。中庭には魔石で明かりが灯る灯籠があり、少し明るい。とはいえ、日中とは違う雰囲気で、不気味と言えば不気味だ。意中の相手ならば、「こわーい」と言って抱きつきでもすれば一つのイベントにでもなり得そうだが、クリストファーは先程からずっと不機嫌で取り付く島もない。
このペアになってしまったことが要因だろう。だが、そこまで怒ることでもないとステラも機嫌を悪くしていた。
「クリス様って、リディア様に執着しすぎじゃありません? しつこい男って嫌われちゃいますよ?」
思わず意地悪な発言をするステラ。リディアの名が出ると、クリストファーは必ず狼狽える。
「なっ! リディアがそんなことを?」
「リディア様が言うわけないじゃありませんか! あの方は魔法と剣のことばっかり考えて筋トレしてます」
「そ、そうだな……」
令嬢の噂話としては褒められたものではないが、事実である。
ステラの前世の記憶では、リディアは『悪役令嬢』だった。だが、ステラが入学時に前世の記憶を手に入れた時点で、彼女は『聖女』扱いされていた。その上、魔法のレベルも高く、剣術まで極めようとしている。しかも、攻略対象者であるはずのクリストファーは、ステラに見向きもしなかった。
「ちゃんと繋ぎ止めておかないと! 他の男に盗られちゃいますよ!」
「分かっている」
「リディア様も無自覚系だからなぁ。こっちも世話が焼けますよ」
「?」
アラン様と一緒に巡りたかったが、今日はレベル上げの日だ! と意気込んで、ステラはひっそりと、ルート外の道にクリストファーを巻き込んで進んでいった。
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「キースはこの先のこと、どこまで考えてる?」
「この先のこと、とは?」
裏庭から庭園へと抜け、スタート地点の正門まで戻る途中のキースとディーン。二人は至って順調に進んでいた。苦手な女子とのペアでなかったディーンが張り切って進み、肝試しというよりは、男二人で雑談をしつつ散策したようなものだった。
「この先って未来のことだよ。魔王が本当に復活するのか、とか。家を継いだ後のこと、とか」
「魔王は復活するのだと思います。あなたの妹君が女神の声を聞いたのですから」
「信じてくれるんだな。ありがとう」
ディーンが柔らかく笑う。それにつられてか、キースも少し照れたように本音を呟いた。
「親友の妹君の言うことです。信じますよ。……その後のことは、正直まだ何も」
「だよな。俺も。結婚、いずれするんだろうけど。俺はお嫁に来てくれる令嬢と、うまくやれるんだろうかって今から不安になる」
「ははっ。私もです。私は何よりもクリスを一番に行動するでしょうから、それに理解を示してくれるような女性でないと無理ですね」
「うわぁ。難しそうだ」
「現に私の母は逃げていますしね」
キースの母親は領地に引きこもり、滅多に王都にはやってこない。ここ数年は確実に来ていない。王都の社交を一切ボイコットしている。宰相であるキースの父親は王都を離れるわけにもいかず、長く別居状態にある。これは公務を優先しすぎて、長く奥方を放っておいたせいだとか。
「宰相の嫁って大変なんだなぁ」
「公爵家の嫁ももっと大変そうですけれどね」
「「はぁ〜」」
二人の令息達が、ため息を吐いていた時のことだった。
バァン!!!!!
空に火花が散る。魔法でうちあげた炎の魔法だ。花火によく似たこの魔法は、遠方にいる仲間にSOSを知らせたいときに使う。ただしこの魔法は自分の現在位置を正確に伝えてしまうため、戦場では使えない。
「何かあったのかも。行こう」
「ああ!」
そうして二人は今帰ってきた道を戻り、裏庭の方へと走りだしたのだった。