悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

「私、魔法をもっと上手になりたいんです!」
「!!」

 我々は火水風土の四大属性のどれか一つの適正を持って生まれる。そして、その魔法レベルが最高値まで上がると『聖魔法』といって光属性のエフェクトがかかるようになるのだ。

 魔王をはじめとする魔族は、この『聖魔法』に弱い。ヒロインはかなり珍しい光属性で、この『聖魔法』の使い手だ。なので魔王戦で大活躍する。そしてその『聖魔法』の使い手だけが、魔王を斃すことが出来る『聖剣』を振るうことが出来るのだ。

 私も生き残るためには、レベルを上げまくって『聖魔法』の使い手にならなければ。

「剣術も、もっと厳しく修行したいです!」
「リ、リディ?」
「私は火魔法の属性ですが、極めて聖魔法レベルまで到達したいのです! そうすれば伝説の聖剣だって使えます! 伝説の聖剣があればきっと魔王も──」
「もうよい」
「お父様っ!」

 父に話を切られ、拳を握りしめた。駄目か……。公爵令嬢たるもの、魔法や剣術の修行よりも淑女教育を重要視するのがこの国の通例だ。やはり反対されるのかと、悔し涙がじわりと浮かぶ。
 
「魔王の話は、信じても良い。近頃、我が国の至る所で魔物出没の報告は受けている。毎年増加していることを鑑みても、リディの夢は信憑性がありそうだ」
「……! じゃあ!」
「だけどね、リディア。私は君が大切だ。聖剣を振るうのが自分かもしれないだなんて、そんなことは考えてほしくない。仮に聖剣の封印を解くことになっても、この国にいる聖騎士が、その役割を担うことだろう」
「……はい……」

 横に立つディーンお兄様が、シュンとする私の頭を撫でた。顔を上げると父は優しい眼差しで、母は酷く心配した面持ちだ。

「……リディが倒れて王宮の客室まで運んだのは、クリストファー殿下だ」
「ええ!?」
「しかもその後、その客室で二人きりで会話したそうじゃないか。倒れたという理由はあれど、密室であり寝室だ。これはどういうことだと思うかい?」

 突然、話題がガラリと変わって驚く。

(私を運んだのはクリストファー殿下!? 寝室で二人きりって……。待って、それは……不可抗力で、私のせいでは……)

「目撃者は幼い令息や令嬢だからね。リディのことを王子が気に入ったとか、王子妃はリディだと、明日には噂として広まるだろう。そして、もし本当に婚約となれば、その時命を狙われる可能性だってある」
「!?」

 ゲームのシナリオ通りなら、確かにリディアは王子様の婚約者になる。だけど早すぎない? 今日ちょっとお話しただけなのに!

「リディの言葉は信じよう。だが魔王を斃すのは公爵令嬢の役目ではない。将来王妃となる可能性があるなら尚更だ」

 ああやっぱり駄目か……と諦めかけた時、父が私の頭を撫でながらこう言った。

「……ただし、お前が自分の身を自分で守れるだけの魔法と剣術は、身につけておいて損はないだろう」
「っ!! ありがとうお父様!」

 半分諦めたように許可してくださった父に勢いよく抱きつく。今は優しい父。厳しくも温かい母。そして攻略対象者の兄、ディーン。

 ゲーム内では、私たち家族の仲は冷え切っていくシナリオだ。

 だけど今はこんなに温かい。優しい家族を私は守りたい。お父様の胸に飛び込んだままぎゅっとその温もりを感じながら、私は決意した。私が死ぬことはもちろん、家族仲が冷え切らないようにイベントを回避しますわ! この家族も守る!

 そして私は、ヒロインの恋を応援して、あの神スチルを見学しますわ!
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