悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

「リディ、私は十歳の君に会った日から、君が好きだよ。深窓の御令嬢だと思っていたら本当はお転婆な令嬢だと知って、もっと惹かれていった。ずっと君を、君だけを愛している」
「! ク、クリス……さ、ま……」

 声が掠れる。瞳が濡れていく。見失いたくない。貴方を見つめていたい。私だって、私だって──。

「勘違いされるようなことをしたのならごめん。でもいつだって私の行動原理はリディだ。君の心を手に入れることが私の目標だった。ゲームのことを聞いてからは、君と一緒に生き残って、想いを告げることが目標になった。だから、やっと叶う」

 クリス様の顔が近づいてきたかと思うと、額同士をコツンと付き合わせた。あの時のアラン様達のような仕草に驚く。至近距離でクリス様を見上げると、意地悪そうな瞳がニヤリと弧を描いていた。

「リディがアランを気にかけているからいけないんだ。生き残ってアランの姿を見るのが目標だったなんて!」
「え!? それはステラとセットですわ! そ、そんな……わたくし別にアラン様が特別なわけではなくて……!」
「じゃあ聞かせて? リディの特別は、だれ?」

 触れている額から、握られている手から、見つめられている瞳から、きっと全部伝わってしまっている。でも意地悪なこのお方は、私に『言葉で示せ』と言っている。真っ赤な顔を手で覆うことも、逸らすことも出来ない。瞳に溜まった涙はツーっと頬を濡らした。

「リディ」
「……クリス様です……」

 思ったよりも小さな声で答えてしまった。「え?」とクリス様が聞くので、もう一度。

「クリス様が! わたくしの! 世界で一番特別で大切で、大好きな御方ですッ!」

 恥ずかしくて目を閉じて言い切ったのだが反応がない。恐る恐る目を開けてみると、顔を真っ赤にしているクリス様がいた。
 目が合った瞬間、額も手もパッと離され、クリス様は片手で口元を覆いながら顔を逸らす。でも見えている左耳は真っ赤で、照れていることは明らかだ。な、なにそれ、可愛い! 照れているクリス様、とっても可愛い!

「だ、大好きですわ! わたくしもクリス様をお慕いしております! あ、愛しています!」

 もっと照れた顔が見たくて恥ずかしいけれど本心をぶちまける。するとクリス様がキッとこちらを向き、目にも止まらぬ速さで唇を塞がれた。

「んんっ!」

 強引なキスだが嫌ではない。そのまま抵抗せず受け入れる。すると、ぎゅううっと抱き締められた。

「好きだ」
「本当に?」
「リディを愛している」
「ステラのことを気にしていませんか?」
「全く。彼女に書いてもらったレポートを読んで、リディに会えない日々を乗り越えた。そういう意味では感謝しているが、恋愛感情は全くない。私が好きなのは、リディだけだ」
「クリス様……! 大好き!」

 ぎゅっとクリス様に抱きつくと、そのまま唇を奪われた。そして再びぎゅっと抱きしめられる。

「……それ以上可愛いことを言うと、結婚式まで待てなくなる……」
「待たなくては、なりませんの?」
「!」
「接吻では子は出来ないと習いましたわ!」
「!!」

 キスは結婚式を待たなくても何度したっていいのではないだろうか。妃教育で「接吻くらいではお子はできません」と教えてもらった。子ができない程度の接吻なら構わないのでは。そう思っていると、何かを我慢した様子のクリス様が唸りながらぎゅっと抱きしめてくれた。


 それからの日々は慌しかった。
 街の復興、被害にあった人々の慰問、補償、魔物の調査。

 サンドラはしばらく目をさまさなかったが、次に覚した時には魔王だったことを忘れていた。調べると魔力が底を尽きていた。
 そこで元々の実家である王都のドレス名店で、服飾師として生きていくよう生活を整えた。

 そして今日。やっと、この佳き日を迎えることができた。

「綺麗だ」

 そう言うクリス様も、今日は白いタキシードに身を包んでいて麗しい王子様そのものだ。
 
「クリス様も素敵です」
「ありがとう」

 二人で紅い絨毯の上を歩く。ゲームでは命を落とす運命だったこの国の重鎮達が笑顔で祝福をしてくれる。
 ステラがアラン様と身を寄せ合いながら泣いている。貴女のおかげよ。
 キース様もお兄様も優しい笑顔で見守ってくれている。二人が生き残ってくれて嬉しい。

 「うおおん! リディアぁぁ」

 野太い声で男泣きしているのはお父様。それをお母様が慰めている。お母様がご無事でよかった。
 
 祭壇を前に私たちは永遠の愛を誓う。
 頭上のステンドグラスからは溢れんばかりのキラキラとした光が降り注いでいた。

「クリストファー殿下。病める時も健やかなる時も、永遠に妻を愛し、慈しみ、支え合い、添い遂げることを誓いますか?」
「はい。誓います」
「リディア・メイトランド嬢。病める時も健やかなる時も、永遠に夫を愛し、慈しみ、支え合い、添い遂げることを誓いますか?」
「はい。誓います」


 その日、最強の王太子夫婦が誕生した。

 数年後、彼らの御代となった時代には、魔王復活の傷跡は見る影もなく、王国は繁栄していったそうだ。
 クリストファー陛下は歴代最強と言われるほどの魔術師であり、その力は他国にもその名を轟かせた。
 そしてその奥方、リディア王妃も『聖女』と呼ばれ、聖石と呼ばれる癒しの石で人々を癒して回ったそうだ。彼女は普通のご婦人とは違い自ら馬に乗り剣を振る騎士でもあった。

 二人は仲睦まじく子宝にも恵まれ、その生涯国のために翻弄しながらも幸せに暮らしたそうだ──。

fin
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