悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
「さて、どうしたものか……」
深夜のメイトランド公爵邸。
メイトランド公爵と公爵夫人であるソフィア、そしてその嫡男ディーンは、神妙な面持ちでティールームに座っていた。
「このまま婚約なんてことになったら、詐欺だと訴えられてしまいます!」
「愛があれば大丈夫ではないですか?」
楽観的なソフィアに対して、男性陣は暗い顔をしている。
「俺は先日、クリスからリディの好きな花を尋ねられました。会うたびリディの話題ばかりで……」
「明日、国王陛下に呼び出された。恐らくリディアのことだろう」
議題は我が国の王子、クリストファー殿下と、メイトランド公爵の愛娘リディアのことだ。明らかに殿下はリディアのことを気に入っている。婚約話になるのは時間の問題である。というより、明日陛下から直々に打診されるのではと戦々恐々としているのだ。
悩ましく頭を抱える男性陣とは裏腹に、思惑通りに事が進みそうな夫人だけは優雅に笑っている。
「お花が届いた上にご本人までお見舞いに来てくださったんですものね」
「しかもその時、リディとクリスをまた寝室で二人きりにさせたと聞きました!」
「な、何だって!?」
「だってクリストファー殿下がリディと二人で話をしたいって仰るんですもの♪」
「くっ……」
メイトランド公爵は、認めたくない現実に目を逸らしたかったが、ようやく顔を上げ事態を結論づけた。
「つまりはクリストファー殿下は、恐れ多くもリディアに好意を寄せてくださっている、ということだな」
「猫をかぶってますからね」
「日頃の教育の賜物ですわ」
クリストファー殿下は出会って早々にリディアが倒れてしまったがために、リディアはか弱い深窓の令嬢だと信じている。ソフィアの厳しい淑女教育のお陰で、リディアは表向きには令嬢らしく振る舞う事ができるようになっているし、まだ社交デビューもしていないこともあって、本当は剣を振るうようなお転婆令嬢だとはバレていない。
「クリスはリディに夢を見てる。危険です!」
「剣や魔法の訓練をして野山を駆け巡るような娘だと知れたら、我が家は取り潰しになるだろうか……」
だが、今まで取り繕っていたものを急に表に出すのも危険だ。社交界で猿のようなお転婆令嬢だと知れたら、それこそ嫁の貰い手がいなくなる。我が国筆頭公爵家としての威厳も保たねばならない。
「気にしなくて良いではありませんか。剣や魔法で自分が守れる、作法も完璧な公爵令嬢ですわ。家柄もよし、技量もよし、安心安全で、未来の王妃として素晴らしいことだとど思いますけど?」
「「うーん」」
メイトランド公爵家の深夜会議は、堂々巡りのまま、奥方が煮え切らない男性陣にイラついて眠るまで続いたのだった。
*
翌日、メイトランド公爵は国王陛下の御前にいた。
「我らが太陽、陛下におかれましては──」
「堅苦しい挨拶はいらぬ。顔を上げよ」
「はい」
公爵と国王陛下も、かつては悪友だと言われた腐れ縁である。気安いやりとりをしていた頃もあったが、メイトランド公爵が聖騎士団の団長に就任してからは、部下の手前、公私ともに国王は仕えるべき主として敬う態度になった。
国王陛下はそれが面白くないのか、堅苦しすぎる挨拶は最後まで言わせてくれないのだった。
「単刀直入に言おう。そなたの娘を、我が息子が気に入ったようだ」
「有り難き幸せにございます」
「そこで──」
「その! 我が娘ですが! 女神の啓示を賜りまして!」
メイトランド公爵は婚約話が進む前に、自身の娘が女神の言葉を聞いたことを暴露した。
それは娘がこの国にとって有益な存在であることを示すばかりか、王子の婚約者にすることの決定打とも言えるのにもかかわらず。
つまりは、娘のお転婆ぶりも、女神の啓示を受けられるというメリットで相殺してもらおうという作戦だ。
こうして二人の間では互いの子どもたちをいずれ婚約させることで合意した。
だが、女神の啓示が正しいのか分からぬ今は、婚約話はまだ保留という形になったのだった。
深夜のメイトランド公爵邸。
メイトランド公爵と公爵夫人であるソフィア、そしてその嫡男ディーンは、神妙な面持ちでティールームに座っていた。
「このまま婚約なんてことになったら、詐欺だと訴えられてしまいます!」
「愛があれば大丈夫ではないですか?」
楽観的なソフィアに対して、男性陣は暗い顔をしている。
「俺は先日、クリスからリディの好きな花を尋ねられました。会うたびリディの話題ばかりで……」
「明日、国王陛下に呼び出された。恐らくリディアのことだろう」
議題は我が国の王子、クリストファー殿下と、メイトランド公爵の愛娘リディアのことだ。明らかに殿下はリディアのことを気に入っている。婚約話になるのは時間の問題である。というより、明日陛下から直々に打診されるのではと戦々恐々としているのだ。
悩ましく頭を抱える男性陣とは裏腹に、思惑通りに事が進みそうな夫人だけは優雅に笑っている。
「お花が届いた上にご本人までお見舞いに来てくださったんですものね」
「しかもその時、リディとクリスをまた寝室で二人きりにさせたと聞きました!」
「な、何だって!?」
「だってクリストファー殿下がリディと二人で話をしたいって仰るんですもの♪」
「くっ……」
メイトランド公爵は、認めたくない現実に目を逸らしたかったが、ようやく顔を上げ事態を結論づけた。
「つまりはクリストファー殿下は、恐れ多くもリディアに好意を寄せてくださっている、ということだな」
「猫をかぶってますからね」
「日頃の教育の賜物ですわ」
クリストファー殿下は出会って早々にリディアが倒れてしまったがために、リディアはか弱い深窓の令嬢だと信じている。ソフィアの厳しい淑女教育のお陰で、リディアは表向きには令嬢らしく振る舞う事ができるようになっているし、まだ社交デビューもしていないこともあって、本当は剣を振るうようなお転婆令嬢だとはバレていない。
「クリスはリディに夢を見てる。危険です!」
「剣や魔法の訓練をして野山を駆け巡るような娘だと知れたら、我が家は取り潰しになるだろうか……」
だが、今まで取り繕っていたものを急に表に出すのも危険だ。社交界で猿のようなお転婆令嬢だと知れたら、それこそ嫁の貰い手がいなくなる。我が国筆頭公爵家としての威厳も保たねばならない。
「気にしなくて良いではありませんか。剣や魔法で自分が守れる、作法も完璧な公爵令嬢ですわ。家柄もよし、技量もよし、安心安全で、未来の王妃として素晴らしいことだとど思いますけど?」
「「うーん」」
メイトランド公爵家の深夜会議は、堂々巡りのまま、奥方が煮え切らない男性陣にイラついて眠るまで続いたのだった。
*
翌日、メイトランド公爵は国王陛下の御前にいた。
「我らが太陽、陛下におかれましては──」
「堅苦しい挨拶はいらぬ。顔を上げよ」
「はい」
公爵と国王陛下も、かつては悪友だと言われた腐れ縁である。気安いやりとりをしていた頃もあったが、メイトランド公爵が聖騎士団の団長に就任してからは、部下の手前、公私ともに国王は仕えるべき主として敬う態度になった。
国王陛下はそれが面白くないのか、堅苦しすぎる挨拶は最後まで言わせてくれないのだった。
「単刀直入に言おう。そなたの娘を、我が息子が気に入ったようだ」
「有り難き幸せにございます」
「そこで──」
「その! 我が娘ですが! 女神の啓示を賜りまして!」
メイトランド公爵は婚約話が進む前に、自身の娘が女神の言葉を聞いたことを暴露した。
それは娘がこの国にとって有益な存在であることを示すばかりか、王子の婚約者にすることの決定打とも言えるのにもかかわらず。
つまりは、娘のお転婆ぶりも、女神の啓示を受けられるというメリットで相殺してもらおうという作戦だ。
こうして二人の間では互いの子どもたちをいずれ婚約させることで合意した。
だが、女神の啓示が正しいのか分からぬ今は、婚約話はまだ保留という形になったのだった。