W·A·K·A·R·E


 木曜の午後十時、携帯が鳴った。



 三か月ぶりに聞く着信音は彼からのもの。


「はい」     

「俺だけど」

「うん」     

「明日の夜、会えないかな ?」

「何時 ?」     

「八時頃でどう ?」

「いいけど」     

「じゃあ、あの店でいい ?」

「分かったわ」     

「それじゃ」

 電話は切れた。




 携帯をテーブルに置く。

 一年前、お揃いで買った携帯。


 番号は同じだったけど、まだ使ってくれているのだろうか ?



 そんなこと、もうどうでもいいけど。


 お揃いの機種を使っていたとしても、心が通い合っていないことは痛いくらい感じていたから……。




 明日、彼から切り出されるのは別れ話。


 みっともない修羅場は演じたくもないから……。


 あの店とは学生時代から待ち合わせによく使った明るくて賑やかなクレープの美味しい喫茶店。

 人前では取り乱したりしない私の性格を見抜いての事だろう。




 明日、彼はどう切り出すのだろうか ?


 別れてくれないか ?

 ……もう別れてるようなものだわ。


 終わりにしよう。

 ……とっくに終わってるんでしょう ?


 他に好きな人が出来た。

 ……そうね。彼女は私の親友だった……。


 君とは、もう付き合えない。
 
 ……それは私のセリフだわ。




 どれだって同じ。

 別れることに変わりはない。


 その言葉の向こう側に彼女が居ることも。




 私は何て返事をするのだろう。

「そう。話はそれだけ ? じゃあ」
そう言って席を立つ。

 今まで、ありがとうなんて心にもない嘘は言えない。



 恋人と親友を一度に失って誰も信じられなくなった……。

 泣いた。喚いた。叫んだ……。

 精神を病んでるかもしれないと思った。


 殺したいくらい憎んでた、あの頃の気持ちは、すぐに消せるほど単純なものじゃない。



 本当に殺したりはしない。

 そんな価値すらもない男など。

 私の中から抹殺するだけで充分。




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