逃すもんか

「はい。それと先生のリビングの写真を見せてくれて、リュカ師匠のことも教えてくれました。」

「そう。それって俺の新人の頃の話しかな?」

「はい。リュカ師匠の素晴らしさを話してくれました。」

「ハハ。カタギリサンは本当に尊敬できる人だ」

「はい。」

「手術のあとは元気?」

「はい。元気でした。奥様と今は孫と会うのが一番の楽しみっとおっしゃってました。」

「そうかあ。 タムラもそうだけど、カタギリサンの紹介してくれる職人は優秀。
真面目で技術力も精神性も素晴らしいんだ。
だから必ず職人の空きが出たらカタギリサンに電話するの。」

「そのおかげで、私は夢が叶いました。
ありがとうございます。」とお辞儀した。

「サムライ」

「え? あ、」きっとお辞儀をする日本人をサムライと思っているのかな?

「日本人の武士道精神を知りたくて本を読んだんだ。大昔にカタギリサンから教えてもらってね。」

「武士道精神。今の日本人はわからないと思いますよ」

「そうなの…残念だね。」

「まだ先だけど、10月から待ってるからね。」

「はい。頑張ります。」
そして、工房へ戻りオレだけ田村先輩の家へ戻ることにした。
一応、乗り換えの駅名も聞いたし、何番の電車かも聞いたから大丈夫だろう。

フランスの超一流のブランドの工房を出てから深呼吸した。

「これからがオレの人生の本番だ」と呟いた。
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