逃すもんか
平岡さんは
「お父さん、お母さん。折角コッチへ出てらしたので、東京見物と史弥さんやウチの職人さん達が心をこめて作ったバッグも本店で見学しませんか?」

「史弥が作ったバッグ…そういや〜アイツがどんなバッグを作ってたのか見た事なかったな母さん。」

「うん。カタログは見せてくれてたけどね…」

平岡さんの提案でまず本店へ。

「いらっしゃいませ。」

「店長。こちらは大崎くんのご両親で、さっき大崎くんを見送ってきたんですよ」

「史弥が大変お世話になり、ありがとうございました。」とお辞儀をした。

「今日、フランスへ行かれたんですね。
なんだか寂しいなあ」

「お父さん、お母さん。こちらは本店の店長さんです。
今日は、史弥がほとんど1人で仕上げたのを特別に奥にしまってもらってたんです。ねぇ店長〜」

「はい。大崎さんはとても腕のいい職人さんでした。
そしてこちらの商品が大崎さんが最後に制作した我が社のバッグです」


「このバッグはウチの会社でも定番中の定番で同じデザインで大きさも3種類あります。
お父さん、お母さん
これが史弥が最後に作ったバッグです。」

それは黒い小ぶりのバッグだった。

お父さんもお母さんもジーッとバッグを見ていた。

白い手袋をした店長さんが中を開けて見せてくれる。
「この小ぶりのバッグは、10年以上の職人じゃあないと作れないんです。
小ぶりな分、技術がないと不良品になってしまうからです。
大崎さんはウチでは8年目の職人でした。
ベテランの職人からも認められないと、
このバッグは作る事も許されないのです。
大崎さんは努力の人でしたからね。」

店長の話しにお母さんは涙を流して目頭をハンカチで抑えていた。

「店長さん、このバッグを下さい。」とお父さんが店長に言った。
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