放課後の眠り姫
「最悪……」

ズルズルと廊下の隅で珊瑚は座り込む。劇が始まるのは午後一時からで、練習時間もあるがカフェなどを教室でやるクラスより、自由時間が多い。その時間を楽しむことを文化祭の何週間も前から考えていたのだが、わくわくする気持ちよりがあまりない。

「あのキスのせいだ……!」

また、珊瑚の顔が赤く染まる。



最終リハーサルも終え、劇が始まる前に役者たちは着替えとヘアセットを済ませなくてはならない。珊瑚はドキドキしながら衣装を着替えるために部屋へと向かう。その途中で、莉生とばったり会ってしまった。

「あっ……」

「珊瑚ちゃん!」

嬉しそうに手を振る莉生に対し、珊瑚は胸が苦しいほど高鳴り、目を合わせることだけで精一杯だ。莉生はフフッと笑って言う。

「いよいよ本番だね。頑張ろう!」

それだけ頰を少し赤くしながら莉生は言い、去って行く。他の人には「頑張ろうな!」と声をかけられたというのに、珊瑚は何も言えずにその後ろ姿を見送った。

「珊瑚、早く来て〜!着替えと髪セットする時間押してる〜!」
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