放課後の眠り姫
「明日、熱が出てほしいな……」

今まで一度も思ったことのないことを、強く珊瑚は思ってしまうのだった。



だが、どれほど願っても熱は出ることなく、翌日、三十六度と体温計は何度測っても同じ数字を示した。

「ハァ……」

ベッドの上でため息を吐きながらも、突然主役が休むことになったらみんなに迷惑がかかるという気持ちの方が大きく、渋々珊瑚は学校へ行く支度を始める。

紺色のブレザーに赤いリボン、そして紺色のスカートの中学校の制服に袖を通す。制服は、珊瑚が唯一着るスカートだ。制服を着た後は朝ご飯を食べ、顔を洗って歯を磨き、髪を黒色のゴムで結ぶ。いつも通りの朝だ。

「あっ……」

ポニーテールに髪を結び終えた時、自分の唇をジッと珊瑚は見つめてしまった。その刹那、昨日のことが鮮明に思い出され、顔が赤くなる。

「……ッ!どんな顔して会えばいいんだ!?」

やっぱり途中で熱が出てくれないか、そう思いながらかばんを乱暴に掴み、珊瑚は家を出た。
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