霊感御曹司と結婚する方法
 明日の行き先は既に聞いてある。

 でも、荷物を整理して、明日出発という日になって、やっぱり迷っていた。

 うやむやにしてはおけないことがあった。

 緊張したけど村岡さんに電話してみた。すぐ出てくれて、話が出来た。

「あの、ずっと、一番確認したくて聞けなかったことがあります。失礼を承知でお伺いします」

「まわりくどいな。なんだ?」

「村岡さん、ご結婚されていますか?」

「独身だが」

「じゃあ、恋人はいらっしゃいますか?」

「……いると言えば?」

 少し歯切れが悪いように聞こえる。彼でも気まずいことなのか。

「では、その方には、私のことをお伝えしていますか? 私が、明日から村岡さんのお家に住まうということを、です」

「いや。一緒に住むわけじゃないから大丈夫だろう。俺は出ていくわけだし」

「そうですか」

 私は、ひと呼吸おいて、その場合の自分の考えていた選択肢を言ってみた。

「お相手がどんな方か、わからないで言っていますが、どんなに心が広い人でも、相手の人にしたらいい気はしないと思うんです。私がその人だったら、ハッキリそれは嫌だっていいます」

「それで、もし俺が聞かなかったら?」

「私なら別れると思います」

「なるほど」

「ですから、そういうことであれば、明日は村岡さんのところには行けません。直前で申し訳ないですが、入社はもう少し後にしてもらえないでしょうか。一週間もあれば自分の住む場所も見つけられると思います。勝手を言ってすみません」

 上手く言えたと思ったが、少しドキドキしていた。

 少し、間があってから村岡さんが言った。

「まわりくどいことを言わせて悪かったが、その心配には及ばない。俺は結婚もしていないし、恋人もいない」

「え?」

「安心したか? 何の心配もなく来たらいい。待っている」

「……何ですか、それ……」

 私は、思わず吹き出してしまった。そして、私は少し安心したし、少し嬉しかった。

「あれから体調はよさそうだな? 声でわかる」

「……食事も少しずつ出来ています」

 本当にそうで、おっくうでたまらなかった引越の準備もこの数日で着々と進んだ。

「過信はしないほうがいい」

「……ありがとうございます」

「明日は夜になるんだな?」

「はい。引越屋さんがきたり、不動産屋さんにたちよったり色々……」

「わかった」

 そんな感じの明日の予定と、予約を取った新幹線の到着時刻を言って電話を切った。
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