霊感御曹司と結婚する方法
「週末、空いているか?」
「もちろんです。何もありません」
「じゃあ、行っていいか?」
そういうやり取りがあって、私がこの部屋に住み始めて、最初の週末がやってきた。
「一週間で部屋の空気がずいぶん変わるものだな」
村岡さんは部屋に入るなりそういった。
「必要そうなものを買っておいた。時間を合わせてきたからそろそろ来ると思うが……」
村岡さんが時計を確認すると同時くらいにインターホンが鳴った。
そして、大きなダイニングテーブルと椅子がリビングに運ばれてきた。
「こんな大きくて立派なテーブル、初めてみました」
「ネットで実物を見ないで買ったが、良さそうだな。前からテーブルくらいはほしいと思っていたんだ。キッチンが使いたいという君も不便だと思うし。あとは、これから一緒に来てくれたらいいと思うんだが……」
村岡さんが車で出かけるといった。言われるままホイホイとついていったが、駐車場で迎え討つ車は、四つの丸がついている超カッコかわいいみんなの憧れのクーペだ。
今の私の姿は、部屋着とは言わないが、それに準じた普段着で、そういう格好で挑める車ではない。かと言って今の私に勝負服なるものがあるわけではない。
「何でわざわざ後部座席に乗ろうとする?」
「……いえ、オービスに引っかかるとまずいと思いまして」
「また、面白いことをいうよな? 黙って横に乗れよ。それか運転するか?」
「無理無理、無理です」
車で連れて行かれた先は、高速を経て郊外の大型ショッピングモールだった。
「鍋と調理器具を買いたい。あと、食器類と」
行き先と目的を先に言うと私が遠慮するからということだった。それでも一から揃えるとなると、結構な額だ。
「安いフライパンが一つあれば、たいていの料理は事足りるんですよ?」
「そういうなよ。ここまで来て」
結局村岡さんが言うがまま、鍋類と調理器具一式を買ってもらった。
「母がこれを見たら、とてもうらやましがると思います」
「そうなのか?」
「母は、粗末な鍋でもおいしい料理をつくりますけどね」
「俺も高価な鍋ならいいとは思わんが。でも、いろいろあって楽しいもんだな」
彼は買い物を楽しんでいるようだった。
そういえば、向井さんとも車でしか行けないような大型ショッピングモールには何度か来たよなあと思い出した。
まだ、あの頃の向井さんは元気だった。
ショーウインドウに映る自分の姿とカートを押した村岡さんの姿が、あの頃の二人の姿を思い起こさせる。
向井さんも村岡さんもある意味住む世界が違う人たちだ。
自分はこういう人たちにとって、一時の安らぎを与える存在なのかもしれないなと妙に納得してしまった。関係が終わっても、後腐れがなさそうと思われるのかもしれない。
「炊飯器もいるだろう?」
「いいです。鍋でも炊けるんです」
「ケトルはいるだろう」
「高価じゃなくていいんですってば」
「クーペだと全然荷物がつめないな。車、買い替えるかな」
「ええ? やめてくださいよ」
「他に必要なものがあったら言ってほしい」
「充分過ぎます」
「テレビとかは?」
「もともと持っていません」
「俺もそうだな。お掃除ロボットとか」
「……あはは」
「なんで笑う?」
「あんまり良くしてもらっても、ここを出にくくなるだけです」
「まあそうだな」
村岡さんは荷物を全て置くと、帰っていった。
買ってもらった食器や鍋を洗って片付けた。がらんどうだったカップボードが少し充実したし、空っぽだったシンクの引き出しもいくつかの鍋が入って重くなった。
それを見ると少し後ろめたさもある。私がここを出たら、また誰にも使われなくなるキッチンになるのだろうか。
(キッチンを使いたいっていうんじゃ無かったなあ……。私はここにずっといらるわけではないし)
でも、胃腸はまだまだ本調子ではないし、自炊がしたかったので、環境を揃えてもらったのは有り難かった。
村岡さんは、やっぱりずいぶんと私のことを気を使ってくれているのかと思ったし、昼間の村岡さんの楽しそうな姿を思い出したら、向井さんのことも思い出して、少し涙ぐんでしまった。
ここを出るときには、ここのお鍋もお皿もちゃんと買い取って持っていくのでお許しください、と、何者かに祈っておいた。
「もちろんです。何もありません」
「じゃあ、行っていいか?」
そういうやり取りがあって、私がこの部屋に住み始めて、最初の週末がやってきた。
「一週間で部屋の空気がずいぶん変わるものだな」
村岡さんは部屋に入るなりそういった。
「必要そうなものを買っておいた。時間を合わせてきたからそろそろ来ると思うが……」
村岡さんが時計を確認すると同時くらいにインターホンが鳴った。
そして、大きなダイニングテーブルと椅子がリビングに運ばれてきた。
「こんな大きくて立派なテーブル、初めてみました」
「ネットで実物を見ないで買ったが、良さそうだな。前からテーブルくらいはほしいと思っていたんだ。キッチンが使いたいという君も不便だと思うし。あとは、これから一緒に来てくれたらいいと思うんだが……」
村岡さんが車で出かけるといった。言われるままホイホイとついていったが、駐車場で迎え討つ車は、四つの丸がついている超カッコかわいいみんなの憧れのクーペだ。
今の私の姿は、部屋着とは言わないが、それに準じた普段着で、そういう格好で挑める車ではない。かと言って今の私に勝負服なるものがあるわけではない。
「何でわざわざ後部座席に乗ろうとする?」
「……いえ、オービスに引っかかるとまずいと思いまして」
「また、面白いことをいうよな? 黙って横に乗れよ。それか運転するか?」
「無理無理、無理です」
車で連れて行かれた先は、高速を経て郊外の大型ショッピングモールだった。
「鍋と調理器具を買いたい。あと、食器類と」
行き先と目的を先に言うと私が遠慮するからということだった。それでも一から揃えるとなると、結構な額だ。
「安いフライパンが一つあれば、たいていの料理は事足りるんですよ?」
「そういうなよ。ここまで来て」
結局村岡さんが言うがまま、鍋類と調理器具一式を買ってもらった。
「母がこれを見たら、とてもうらやましがると思います」
「そうなのか?」
「母は、粗末な鍋でもおいしい料理をつくりますけどね」
「俺も高価な鍋ならいいとは思わんが。でも、いろいろあって楽しいもんだな」
彼は買い物を楽しんでいるようだった。
そういえば、向井さんとも車でしか行けないような大型ショッピングモールには何度か来たよなあと思い出した。
まだ、あの頃の向井さんは元気だった。
ショーウインドウに映る自分の姿とカートを押した村岡さんの姿が、あの頃の二人の姿を思い起こさせる。
向井さんも村岡さんもある意味住む世界が違う人たちだ。
自分はこういう人たちにとって、一時の安らぎを与える存在なのかもしれないなと妙に納得してしまった。関係が終わっても、後腐れがなさそうと思われるのかもしれない。
「炊飯器もいるだろう?」
「いいです。鍋でも炊けるんです」
「ケトルはいるだろう」
「高価じゃなくていいんですってば」
「クーペだと全然荷物がつめないな。車、買い替えるかな」
「ええ? やめてくださいよ」
「他に必要なものがあったら言ってほしい」
「充分過ぎます」
「テレビとかは?」
「もともと持っていません」
「俺もそうだな。お掃除ロボットとか」
「……あはは」
「なんで笑う?」
「あんまり良くしてもらっても、ここを出にくくなるだけです」
「まあそうだな」
村岡さんは荷物を全て置くと、帰っていった。
買ってもらった食器や鍋を洗って片付けた。がらんどうだったカップボードが少し充実したし、空っぽだったシンクの引き出しもいくつかの鍋が入って重くなった。
それを見ると少し後ろめたさもある。私がここを出たら、また誰にも使われなくなるキッチンになるのだろうか。
(キッチンを使いたいっていうんじゃ無かったなあ……。私はここにずっといらるわけではないし)
でも、胃腸はまだまだ本調子ではないし、自炊がしたかったので、環境を揃えてもらったのは有り難かった。
村岡さんは、やっぱりずいぶんと私のことを気を使ってくれているのかと思ったし、昼間の村岡さんの楽しそうな姿を思い出したら、向井さんのことも思い出して、少し涙ぐんでしまった。
ここを出るときには、ここのお鍋もお皿もちゃんと買い取って持っていくのでお許しください、と、何者かに祈っておいた。