霊感御曹司と結婚する方法
遠城さんのおしゃべりはさらに続く。
「彼のお葬式、誰も呼ばれなかったのよね。会社関係もそうだし、友人関係もみんな。
彼ほどの人よ? これから会社を引っ張っていくはずだった人よ。誰もが亡くなったってきいてビックリしたはずよ。だけど、奥さんから、亡くなりましたって、会社に事務的な連絡がいっただけだったのよ。
生前の彼がお葬式を望まなかったのかしら?
でも、向井くんは社交的な人だったし、彼なら自分が死んだことは、彼を知るみんなに知っておいてほしかったんじゃないのかなって思うと、それは考えられなかったのよね。
私は、どうしても納得がいかなかったし、お参りをさせてほしいって彼女に連絡をとったんだけど、お骨は分骨してお寺に入れるから、そっちに行ってくれって言われたのよ。
それって、家には来てくれるなって意味よね。
せめて、お骨になった向井くんに会いたいじゃない。どんな遺影が飾られているかとか見たかった。お花を添えてね。でも、それもさせてくれなかったの。
私は、彼が亡くなったって実感が未だに全然無いのよ。
思うに、夫婦関係は、とっくに終わっていたんじゃないかしら。会社の噂では、向井くんは亡くなるまで、ずっと浮気してたっていうし……」
遠城さんはおしゃべりを止めて、私の異変に気が付いた。
「あら? ……どうして、あなたが泣いているの?」
「……私は、いつ彼が亡くなったかも知りませんでした」
「あなた、そうだったの。向井くんの相手って、あなただったの。ものすごい偶然……。なんか、私が思っていたのと違う印象よね……」
遠城さんは、オロオロして言った。
ここで、私は遠城さんに向井さんとの関係を白状した。彼と知り合った経緯は話したが、彼が原因で起きた金銭トラブルのことは言わなかった。
遠城さんは、それを聞いて慰めてくれた。
「彼の病気を知ってから付き合い始めたのね。それにしても、向井くんも酷い男よね。色んな意味で。それでは、彼のことは誰にも言えないし、聞けなかったわよね。ずっと辛かったでしょうに」
「遠城さん、すみません」
「なんで謝るの?」
「黙って、お話を聞いてしまって」
「いいのよ、そんなこと」
「それに、私のお話まで聞いてもらって。……私は、彼とのことは、一生自分の胸のうちにしまっておこうと思っていました」
「私は向井くんの裏事情を知って、モヤモヤが晴れた気がするわ。やっぱり私の思った通りだったって事よね。彼は奥さんとは、亡くなるまで決着がつかなかったのかしらね?」
「それはわかりません。でも、今のお話を聞いて、そうだと思いました。……私も、はやく向井さんのこと自由にしてあげられたら良かったんです」
「……ごめんなさい。ちょっと無神経なことを言ってしまったわね」
私は黙って首を横に振った。
「ただ、向井くん、幸せなうちに旅立てたんじゃないかしらね? 私は少しだけ安心したけど?」
──幸せなうちに旅立てた。
私は、帰ってから遠城さんが言ったその言葉をずっと反芻していた。
向井さんの死の顛末の後片付けしたのは奥さんだ。棺に入ったやせ細った向井さんを見送ったのも彼女だろう。何か言いたかったことが彼女にもあったはずだ。だけど、彼女の気持ちを置き去りにして、向井さんは帰らない人となった。
そういうことを想像して、彼女の心境を思うと、悲しくてたまらなかった。どこにもぶつけることができない何かが彼女にもあっただろうと思った。
その日の夜は、少し前の眠れない夜の感覚も思い出してしまって、久しぶりに一睡もできなかった。
「彼のお葬式、誰も呼ばれなかったのよね。会社関係もそうだし、友人関係もみんな。
彼ほどの人よ? これから会社を引っ張っていくはずだった人よ。誰もが亡くなったってきいてビックリしたはずよ。だけど、奥さんから、亡くなりましたって、会社に事務的な連絡がいっただけだったのよ。
生前の彼がお葬式を望まなかったのかしら?
でも、向井くんは社交的な人だったし、彼なら自分が死んだことは、彼を知るみんなに知っておいてほしかったんじゃないのかなって思うと、それは考えられなかったのよね。
私は、どうしても納得がいかなかったし、お参りをさせてほしいって彼女に連絡をとったんだけど、お骨は分骨してお寺に入れるから、そっちに行ってくれって言われたのよ。
それって、家には来てくれるなって意味よね。
せめて、お骨になった向井くんに会いたいじゃない。どんな遺影が飾られているかとか見たかった。お花を添えてね。でも、それもさせてくれなかったの。
私は、彼が亡くなったって実感が未だに全然無いのよ。
思うに、夫婦関係は、とっくに終わっていたんじゃないかしら。会社の噂では、向井くんは亡くなるまで、ずっと浮気してたっていうし……」
遠城さんはおしゃべりを止めて、私の異変に気が付いた。
「あら? ……どうして、あなたが泣いているの?」
「……私は、いつ彼が亡くなったかも知りませんでした」
「あなた、そうだったの。向井くんの相手って、あなただったの。ものすごい偶然……。なんか、私が思っていたのと違う印象よね……」
遠城さんは、オロオロして言った。
ここで、私は遠城さんに向井さんとの関係を白状した。彼と知り合った経緯は話したが、彼が原因で起きた金銭トラブルのことは言わなかった。
遠城さんは、それを聞いて慰めてくれた。
「彼の病気を知ってから付き合い始めたのね。それにしても、向井くんも酷い男よね。色んな意味で。それでは、彼のことは誰にも言えないし、聞けなかったわよね。ずっと辛かったでしょうに」
「遠城さん、すみません」
「なんで謝るの?」
「黙って、お話を聞いてしまって」
「いいのよ、そんなこと」
「それに、私のお話まで聞いてもらって。……私は、彼とのことは、一生自分の胸のうちにしまっておこうと思っていました」
「私は向井くんの裏事情を知って、モヤモヤが晴れた気がするわ。やっぱり私の思った通りだったって事よね。彼は奥さんとは、亡くなるまで決着がつかなかったのかしらね?」
「それはわかりません。でも、今のお話を聞いて、そうだと思いました。……私も、はやく向井さんのこと自由にしてあげられたら良かったんです」
「……ごめんなさい。ちょっと無神経なことを言ってしまったわね」
私は黙って首を横に振った。
「ただ、向井くん、幸せなうちに旅立てたんじゃないかしらね? 私は少しだけ安心したけど?」
──幸せなうちに旅立てた。
私は、帰ってから遠城さんが言ったその言葉をずっと反芻していた。
向井さんの死の顛末の後片付けしたのは奥さんだ。棺に入ったやせ細った向井さんを見送ったのも彼女だろう。何か言いたかったことが彼女にもあったはずだ。だけど、彼女の気持ちを置き去りにして、向井さんは帰らない人となった。
そういうことを想像して、彼女の心境を思うと、悲しくてたまらなかった。どこにもぶつけることができない何かが彼女にもあっただろうと思った。
その日の夜は、少し前の眠れない夜の感覚も思い出してしまって、久しぶりに一睡もできなかった。